Novel
□幸せの定義
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「ほら」
「え?わっ」
俺が無造作に投げた紙袋を反射的に受け取る古泉。
そちらのほうを見ていなかったからどんな顔をしているかは分からなかったが、驚いているのはその声音からなんとなく伝わってきた。
「あんまり大した物じゃあないが・・・まあ要らなかったら捨ててもいい」
後ろでガサガサ、という音がする。
そして、きっと綺麗にラッピングされたそれを見つけたのだろう、「あ」と声をあげる。
「これってもしかして・・・僕にプレゼント、ですか」
「まぁ、な」
頑なにそちらを見ようとしない俺の肩を掴み、強引に自分の顔のほうに向けさせる。
古泉のその顔は、俺が全く予想だにしなかった、悲愴感に満ち溢れた顔だった。
・・・俺、なんかしちゃマズイことでもしたか?
「すみません」
謝られる意味が分からねぇ。
俺の胸のうちは不安に染まってゆく。
そして、古泉は本当に苦しそうな顔をして俺にこう言ったのだった。
「僕、クリスマスだってこと忘れててあなたにプレゼント用意出来てません」
瞬間、身体の力が抜けた。
それを古泉が慌てて支える。
「キ、キョンくん?!すっ、すみません!明日にはちゃんと用意しますから!!」
「い、いや、そうじゃなくて・・・」
もう大丈夫だと手で制して心配顔の古泉から離れる。
「別にそういうのいいから。それに」
赤くなっているだろう自分の顔を見られたくなくて明後日の方向を向いた。
「今みたいに側にいてくれるだけで、俺はいい」
沈黙。
その沈黙が気まずくて、なにか言おうと古泉の方を見ると、それはもう見事な『鳩が豆鉄砲を食らったような』顔をしていた。
そして、その驚きに満ちた顔が急にくしゃっとなって。
「キョンく〜んっ」と情けない声を上げながら俺に抱きついてきた。
それで俺は不覚にも「かわいい」と思ってしまって。
その自分の考えに赤面しながらも、いかにも仕方なしに、という風に頭をぽんぽんと叩いた。
すぐ近くにある体温と、塩辛い液体の温かさを感じながら、おれは同時に幸せを感じていたのだった。