定点観測


◆玄武岩時代その2 

生きにくさが始まる

10年遅れて生きて
10年早く考える
一度始めるとずっとそのまま
星も霜もすっ飛ばして行く
生きにくさが始まる

サリーの学校は筆箱の中
森と湖、ヒナギクの花も
谷底の黄色いクーペもずっとそのまま
この世の果てまですっ飛ばして行く
生きにくさが始まる
そして生きにくさが始まる



月桂樹

月桂樹の下に白く長い車体が止まり
低いハンドル越しにドアを開けて
明るい色の服で微笑み
たとえ鉄屑になるとしても
白い車体を待つだろう
長い車体を待つだろう

紫の霧に滲む外灯の尽きる音を最後に
真珠のようにドアを閉めて
明るい色の服で微笑み
たとえ地獄の使いとしても
白い車体を待つだろう
長い車体を待つだろう


朝も早ようから

朝も早ようからビール腹で
バケツをかぶる入道頭
見世物小屋を出ていくように
笑って過ぎる夜明
ジーゼル汚れたテールの上に
描いた言葉もきれいに消して
行く手の森は産業廃棄物最終処理場

朝も早ようからスパンコール
帰り道だね俯き白々
夢が終わればまた始まり
夜明の街には帰れない

ジーゼル汚れたテールの上に
描いた言葉もきれいに消して
行く手の森は産業廃棄物最終処理場


友達

空と屋根の間で、雲と海の間で
止まない風の音
夏は今始まるけど
今、もう終わったようでも

空と枝の、雲と丘の間で
駆け回る友達の足音
誰も友達なんか欲しくないような人生

見下ろす海に散らばる島に
上手く渡り継ぎ
隠れて今もそこにいる
偉くなった人も、家に隠る人も
役にたつ相手だけを友達と呼ぶ
誰も友達なんか欲しくないような人生


たまに世界も

たまに世界も帰って来るよ
緑の草地の最高速度
土手のカマキリ蝮の行列
暗い話が大好きなのさ
悲しい歌が大好きなのさ
そうするとこの世も愉しげに見える

たまに世界も帰って来るよ
丘の上には暗い薔薇園
白檀の扇子はフェリーの上
暗い話が大好きなのさ
悲しい歌が大好きなのさ
そうするとこの世も愉しげに見える



吹雪の金銀

吹雪の金銀降り積もる
皆帰った宴会場
やっとたどり着いたよ
舞台の後ろのドアを開けて
ここで安心して生きたらいい

床を柴で打つ音がする
誰もいない宴会場
やっとたどり着いたよ

二度と会えない人々か
必ず会える人々か
やっと分かる所さ
舞台の後ろのドアを閉めて
ここで好きなだけ生きたらいい


青山

山は青く花は紅く
深い淵の底で石は白い

道は長く軒は低く
深い皺の底で人の目は黒い

空も山も遠く
排気ガスとともにどんどん遠く
若人の成れの果て信号を待ち
トラックに吹かれ煤けていく

2012/03/04(Sun) 08:34

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