きら星

どこかで会った人びと
◆普通の人 

今日は隣の信長さんを危うくひきかけた。帰って来て駐車しようと車をバックさせていてふと見ると、白髭の信長さんが後ろにぼーっと立っておられた。
降りてから「すみません」というと、信長さんは穏やかに「ビーケアフル」と言うのだった。

うちの長屋に車を停めようとすると、道路でストップし、急いでバックしてブロック塀の中に入らないといけない。躊躇していたら狭いカーブを爆走してくる車にクラクションを鳴らされ腹をたててバカ野郎!!と怒鳴らなくてはならなくなるからだ。
実際怒鳴ったこともあった。朝、うちの前の狭い道路で真っ赤な軽自動車と鉢合わせた。相手がほんの一メートル下がれば離合場所だというのにこいつはクラクションをならしながらどんどん進んで来る。仕方ないから私は十メートルくらい下がってやる。しかしその間もこの野郎は目を剥いてクラクションを鳴らし続けるのである。すれ違う時窓を開けて「バカヤロウッ」と私は怒鳴った。その時ふと見るとちょっと離れた道端で信長さんが小刻みに手を降り、交通整理をしていたのだった。

信長さんは隣の長屋に住む人で、表札に「信長 クリントン」等と書いているが、我々が引っ越してきた時は「ヤマダです」と名乗っていた。今日は私に「マイネームイズ、ヤスヒロモニョモニョ(聞き取り不能)」と言った。もしかしてヤスヒロナカソネだったのだろうか?なぜ今日は英語なのか?それはわからない。

夜となく昼となく、隣からは信長さんの怒鳴り声が響いてくる。誰に向かって、なぜ怒鳴っているのかは不明だ。夕方には祈祷が始まる。何教とも言えない折衷的な祈祷が長いこと長いこと続く。

最近思うのは信長さんは穏やかな人だということだ。以前道端のおばさん達に怒鳴っていたことはあるが、概ね平和主義者のようである。家の中では怒鳴るが外で出会う時は大変穏やかでにこやかである。今日も「快適に暮らすのが一番ですよ」と繰り返し繰り返し呟いておられた。見ず知らずの相手をしょっちゅう罵倒する私の方が乱暴であるのは間違いない。


信長さんは感じが良い隣人とは到底言えないが、嘘偽りがあまりなさそうだし(名前はペンネームだ。私だって印鑑を三種類くらい作っていた)他人を利用するとか金づるにするとか踏み台にするとか、妬むとか足を引っ張るとか傷つけるために意地悪を言うとか、要するに浅ましい魂胆とは縁がなさそうだし、私が知っている中では大変に普通の人だという気がする。

2011/04/27(Wed) 18:45

by 朝比奈
ただ、自分は元来乱暴な人であるからには、毎日聞こえる隣家の怒鳴り声に対して劇的な反応を起こさないとも限らない。だからなるべく家にいないようにしている。見越してだか、信長さんはうちの前で「解ってるか?それは犯罪行為だよ」とよく呟いている。


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