きら星

どこかで会った人びと
◆帰ってきた人 

遠い昔になってしまい、普段は忘れてしまっているが、時々思い出すと気になってしょうがない事がある。今は、うん10年前にフィリピンから帰ってきたタオさんの事が気になっている。
タオさんは旧日本軍の兵士で、あの頃世間で騒がれた横井さん達のように終戦後も日本に帰れないままフィリピンに留まっていたのだ。その人がいよいよ帰ってくる!わが村のヨコイさんだ!ということで大騒ぎだった。我々子供は日の丸の旗を持って、大人は正装して村の目抜通りの広場で歓迎式典が行われた。
現れたタオさんは私には全く外国人のように見えた。背が高かったのもあるが日本語が通じないらしかったからだ。地元の中学校の英語の先生が通訳をしていた。へったくそだなあ、と子供心にも思ったのをよく憶えている。

しかし、なぜ英語?と今は不思議でならないのだ。出征するまでほぼ20年間日本語を話していた人が、30年間使わないと忘れるものなのか?

ブラジル移民の親戚は日本に来るとそこら辺のおじさんと変わらない広島弁で話す。けれど、彼らはブラジルでも日本語を話せる環境にあるからタオさんの場合とは全く違う。

その言語で話しはじめ、その言語で育った人が、数10年で本当に話せなくなるのだろうか。自分の経験では全く想像できないのでうーん、と頭をかかえる。

タオさんはその後、村には住まなかった。今何処にいらっしゃるか、ご存命かどうかも判らない。

2010/08/18(Wed) 21:38

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