きら星

どこかで会った人びと
◆羨ましい人 

いわゆる普通のお嬢さんというものに弱い。旧家とか金持ちとか有名人の子供などには興味はない。普通のマンションや団地や住宅街に住んでいて親がサラリーマンだったりしそうなお嬢さんが良い。

高校の写真部の男の子が文化祭に出品していた一枚の写真で私は普通のお嬢さんに目覚めたのである。太田川の河原に立っている女の子を撮ったものだった。向こうに橋が見えて流れが湾曲しているのを背景にショートカットの女の子の横顔を大きく撮していた。撮った本人にモデルは誰かと聞いたら「Y女子高の子」と言った。多分彼女なんだろう。私はこの男の子とはわりと仲が良かったのだが、一気に彼が大人に見えてちょっと尊敬の念すら抱いた。そして「いいなあ」と羨ましく思った。そんな普通のお嬢さんと付き合ったりモデルになってもらえるなんて!!

我々の高校にも普通のお嬢さんは勿論いた。私が付き合った男の子の前の彼女というのがそうだった。山手の団地に住んでいて吹奏楽部でサキソフォンを吹いていた。付き合っている頃は二人で河原に行って彼女の練習に付き合ったのだそうだ。「いいなあ」と私は彼を羨ましく思った。


大学の頃付き合ったバイク好きの彼の前の彼女がまた普通のお嬢さんであった。付き合っていた頃バイクの後ろに乗せて行ったという野呂山での写真がまた良かった。彼女は髪が長かったのでヘルメットの後ろからいい感じに流れ出ていた。(私は大抵ヤンキー少年に間違われた)だから私は彼が羨ましかった。いいなあ、普通のお嬢さんを後ろに乗せて走れるなんて。


私の思う普通のお嬢さんには何となく基準があって、まず夏にはノースリーブのワンピースやブラウスを着る。これは私には決してできない事であった。私の叔母は御歳70になる今だって着ていらっしゃるし、母や姉ですら着ていた(だからと言って母や姉は私の思う普通のお嬢さんではありえない)のだが私は駄目だった。腕が太いとか恥ずかしいとかの問題ではない。どうも文化が違うのだ。不思議なことにランニングだと平気なのである…

うちの向かいに神楽君の同級生の家がある。そこのお母さんが歳はくっているが普通のお嬢さんなのである。去年の夏庭先でちらっと見かけたらノースリーブのブラウスを着ていた。夏祭りには浴衣姿で子供のスポーツ少年団の出店を手伝っていた。(その日私はTシャツに頭にタオル巻いて神楽君の太鼓の出店を手伝ってひたすらウィンナーを焼いていた)

そうだ、普通のお嬢さんは普通のお母さん、普通の妻になるのである。

実はその家のお父さんは鬱気味でときどき爆発する。犬を飼いたくて飼っているんじゃない!!とか良くわからない事で怒鳴り散らしている。だからうちにいると、裏の信長さんの怒鳴り声とサンドイッチ状態になる時もある。甚だ迷惑な話ではあるが、私は多少このお父さんが羨ましい。
普通のお嬢さんを普通の妻にしているなんて「いいなあ」と思うのである。

2012/04/13(Fri) 21:17

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