蛍の光
私が生まれてこのかたほとんどの時間を過ごしてきた「学校」なるものに関する色々です。
◆誰もいない校舎
誰もいない廊下で振り返ると、思ったとおりに君が駆けてくる。給食室のシャッターを上げていると、君がドーンと終わりまで押し上げてくれる。配送のおじさんの給食膳をひとり分持てば、君が必ずもうひとり分を持って後ろから来てくれる。
誰もいない体育館で、シートを巻き上げて振り返ると、思ったとおりに君が黙々とシートの束を運んでいる。巻き上げた重いシートと一緒にステージ上によじ登る私を押し上げてくれる。
誰もいない視聴覚室で振り返ると、思ったとおりに君が脚立を持って入って来る。苦労して電灯を取り替える間、私は脚立を押さえていてあげる。
誰もいない階段をゆっくり降りていると、撮ったばかりのカメラを君が覗きこむ。一段一段降りながら、一枚一枚確かめる。踊り場のステンドグラスの前でもっとよく見るために立ち止まり、笑いあう。
オリーブの花が散る畑の坂道で振り返ると、思ったとおりに君が登って来る。今にも落ちて来そうな裏山の岩を見上げて寒くなるまで話をして「じゃあ、また月曜日に」という。
誰もいない夕暮れの前庭で振り返ると、思ったとおりに君の白い車が停まる。私はボンネットによじ登る真似をして笑いあう。
こうして、誰もいない校舎のあちこちに君がいるからつい立ち止まる。風が鳴り落ち、君の姿が見えなくなるまで。
2011/06/01(Wed) 00:36
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