蛍の光

私が生まれてこのかたほとんどの時間を過ごしてきた「学校」なるものに関する色々です。
◆風の吹く日も雪の日も 

この夏で私の小学校は廃校になったらしい。統合されたわけだ。私が在校していた頃は、分校が二つあった。同級生は15日人いたから、私は複式を経験していない。だが、どんどん子供が減り続け、複式となり、ついに統合となったわけだ。

私の入学式も卒業式も戦前からある古い立派な講堂で行われた。選挙も結婚式も告別式も映画上映も行われるこの講堂こそ、私にとっての小学校だった。校舎は引っ越しや建て替えでコロコロ変わったが、講堂は変わらなかったからだ。

この講堂の舞台下には広い和室の楽屋がある。ここで私は、とにかく持ち物の員数を揃えるという軍隊的な処世術とか、和室の掃除のやり方などをどやされながら学んだ。講堂の入口には石炭(後に石油)置き場があり、腰を痛めず重い物を運ぶやり方や、無駄口をたたかずとにかくやれば仕事はさっさと片付くということを学んだ。

走ると穴が空きそうな危険なフロアでは体育が行われ、皆が無視する分校からの転校生に手を出して引っ込めた私は代表でどやされ、中途半端な同情は単なる保身より質が悪いということを学んだのだった。


毎年の入学式と卒業式では、黒いベルベットのスーツや紋付き袴の母がピアノ伴奏をしたり、卒業証書を黒い盆に載せて緞帳から華々しく現れたものだった。

自分の卒業式もG線上のアリアで始まり、母の伴奏で歌う校歌で終わった。

中学校や高校の校歌など全く憶えていないが、小学校のだけははっきり憶えている。「さ霧が流れ雲白く、山また水も青々と」とか「風の吹く日も雪の日も」とかのフレーズには胸に迫るものがある。

雲に包まれ、鬼くらいしかいないと下界の里びとに思われていた荒れ地にむっつりと代々暮らし、暴風雪の中を前を睨んで這うようにして代々歩いてきた我々の琴線に、ごく単純な言葉でみごとに触れる歌詞だったと思うのだ。

2011/09/22(Thu) 21:51

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