04/20の日記

13:26
夢のまた夢、駆け回る
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最近母の体調が不安定なので、昨日は近くの古保利薬師に行くに留めた。前々から近辺を通る度に、あそこから薬師さんに上がるのだと話していた母だが、昨日「どこから入るんだっけ」と聞いてもサッパリおぼえてはいなかった。しかし分かりやすい看板がでていたので迷うことはなかった。

急な坂をしばらく車で上ると、林の中に山門が有り、いくつかの建物があった。吉川の昔にはここには49の寺があったという。
うろうろしていると、資料館のおじさんが出てきて「仏様をご覧になりますか?」と言われた。初老のその方は鍵を開けて、薬師さんの前に椅子を持ってきて母を座らせ、重文の薬師像等 の仏像などについて丁寧に、さまざまな資料コピーやよその仏像の写真なども見せながら解説してくださった。

そのうち母が「この仏さんの胸の辺りがひくひく動いておる」というので、おじさんは「そういう事なら、私は坊主でも何でもありませんが」とことわってやおら般若心経を取り出して読みはじめた。(神楽君はよくこれを書写している)母は途中まで頑張ってついてよんだ。私もなんとかギャーテーギャーテーのへんまでついていった。

さて、そろそろ行こうかと母を立ち上がらせると悪いことにパッドの隙間から漏れた小水で椅子を濡らしてしまっていた。おじさんは少しも嫌な顔をせず「いいからいいから」と言ってくれた。

トイレでパッドとパンツを交換したがズボンの替えを今日は持っていなかったので母には気の毒だが濡れたズボンのままグループホームに帰った。もう一度清拭していただきズボンも履き替え、部屋で少し休んだ。最近気に入りの「くうちゃん」という熊のぬいぐるみを抱きしめて母はベッドで丸くなるのであった。

しばらくして、私が「じゃあまた来るね」と言うと、縫いぐるみを抱いて丸くなったままではあるが「気を付けるんで。焦ったらいけん」と諭すのであった。そう言う母の顔は昔よりも随分白くなり、骨も小さくなったのか、でこぼこも少なくなり、大変綺麗に見える。

帰りの車の中はしばらく糞尿の匂いが漂っていたが、これは今に始まった事ではない。むしろ母の顔が綺麗に見えた事が少なからずショックだった。まあ、父の好みの顔に近づいた、良かったね、とも言える。

夜、ロベスお気に入りのドラマ『最後から二番目の恋』を動画で観る。小泉今日子と中井喜一がますますパワーアップしていて笑いながら見る。舞台はいきなりフランスのニースに飛ぶ。高台にあるカフェでのシーンを見ながら、25年くらい前に母と二人でニースの海岸近くのホテルに泊まった事を思い出した。夜、ベランダを散歩していると高台のホテルの屋上に明々と灯りが点っていた。今度は彼処に泊まりたいね、等と旅に浮かれて二人夢のような話をしていた。


確かに過ぎた日々は夢のようだ。母自身は何をおぼえているやらまるで解らないのだが、私は、衰えてなぜか綺麗になった母の顔の中に過去の燦然とした煌めきの跡を見る。これは安心してよいことなのか、惜しんで哀しむことなのか、やや混乱して戸惑うのである。

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