あれかこれか

□あれかこれか2
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父方叔父夫妻
父が死ぬ一月前くらいに「兄さんが死んでも葬式には行かない!」と、絶交した短気な弟さんだ。
叔父は昔から短気で、叱られると暗くなるまで家に向かって石を投げ続け、皆に呆れられていたらしい。父はなにかと「気の小さいつまらん奴だ」と言っていた。
若い頃はアメリカかブラジルに、親戚達を頼って移民しようと考えたようだが、見込みがないからと諦めさせられ、サラリーマンになった。真面目に転勤や単身赴任をこなし、あわや過労死という事も数回あった。今は東京郊外に建てた家に住む。父より身体も人物も幾まわりか小さい叔父だが、真面目で善良な人である。
叔母の方は社交的なしっかり者だが、新築祝いに行った時、蒲鉾ばかりの料理を出されて仰天した。料理は苦手らしい。この人は京都の芸姑の娘で、実の父はさる高名な人だというが…。持参金付きで赤の他人に貰われて、新しい父親はその金を資本に起こした事業が成功して財を成した。
その気で見ると、叔母は京女らしいきれいな顔立ちだ。叔父と違って冒険的で、消息をきくたびいつも新しい団体や運動に首を突っ込んでいる。今は拉致問題らしい。
本当に叔父は葬式にも来なかったので、この人達には何年も会っていない。娘が二人いるが、どちらも結婚がうまく行かないで家に帰って来ている。以前、長女が産んだ初孫にニューギニアで戦死した長兄の名前をつけたと知らせてきた。それを聞いた父は感心するどころか「戦死した者の名前をわざわざ嬉しげにつけんでも良かろうに」と冷淡であった。
父が死んだので長兄の遺族年金の受け取り人はこの叔父になった。母は手続きをして書類を送った。さすがにお礼の気持ちとしてこの夫妻は小包を一つ送って来た。年金で買ったという。中に「千の風に…」のCDも入っていた。この曲は好きな母だが喜ぶどころか「わざわざCD聴いている暇なんかない」と一喝して終わりだった。
なかなか褒められることのない人達である。
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