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□静寂の心地よさ
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 ここのところ雨が止まない。既に溜まった水溜まりを雨粒が打ち付け、ポツポツと水の跳ねる音が耳障りに思えてくる程、それは降り続いていた。
 しんと静まったアジト内にその音はえらく響き、また、こう雨が続くと仕事にも行けないせいか団員は不機嫌さを露にしていた。


「…今日も雨か」

 パタン、と読み終えた本を閉じてテーブルの上に置かれたティーカップを手に取ると、ふわりとほろ苦いコーヒーの匂いが鼻をかすめる。
 ぐいっと喉へと流し込み、飲み込んだ瞬間だった。


 キィッ…

 古びたドアが小さな音をたてて開いた。団員の誰かかと一瞬思ったが、少しだけ開いたドアの隙間から見えた毛布に、あぁ、と笑みを浮かべた。
 遠慮がちに覗き込む小さな影においでと優しく手招きしてやると彼女はゆっくりとじめじめした部屋の中へと足を踏み入れた。


「また寝れないのか」


 こくり、と頷き毛布をずるずる引きずるその姿はいつもよりか少しだけ幼く見える。
 隣に座るよう促すと大人しく腰を下ろし、自分の膝を枕にするように倒れ込んできた。髪に指を通せばふわふわの猫毛が揺れる。


『…雨がうるさい…』
「相変わらずの雨嫌いだな。また寝てないんだろ?」

 目の下に隈ができてる。
 くつくつと喉を鳴らしながら黒くくすんだそれを指でなぞるとくすぐったそうに目を細める。
 雨は確かに耳障りだが、今のこの空間は嫌いではない。


『雨が止んだら…起こして…』
「ああ…俺の膝を貸してやるんだ。ぐっすり寝ろ」


 何それ、と半分夢の中に入りながらもくすくす笑いを零し、数秒も経たないうちに彼女は寝息をたて始めた。
 音をたてないようにテーブルの上に投げ出した本を取り、ペラリとページをめくる。
 未だ降り続ける雨音と、彼女の寝息だけが聞こえる。心地よい空気に自分までもが眠くなってきて、結局数時間後には室内に二人分の寝息が響いていた。


静寂の心地よさ




080805

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