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□痛みを感じてしまう人と感じられない人。
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日が沈んで、真っ暗な中に少しの光源。
ある日の、夜だった。



「怪我したんですか!?十代目!!」
「獄寺君!?」
ばたばた走り寄って来たのは、人の痛みを感じられる人。
比喩でも何でもなく、本当に君は…
「う…っ」
痛みを、感じるんだ…
「獄寺君、大丈夫!?」
「痛て…っ…」
「一旦、離れよ!」
がば、と体を起こす。
そして俺の肩に添えられた手をそっと離す。
「はぁ…十代目…痛い、ですね…」
「…そうかな?…全然痛くないや…」
離したら、獄寺君は息をついて呟く。痛みが消えたから。
そして、俺は…
「…やっぱり、分からなかったや…」
痛みが、分からない…



俺達は、不思議な境遇に有った。
昔、ジャンニーニの失敗作のせいで、俺達はこんな事になった。

…俺の感覚は、殆ど無くなった。
そして獄寺君は、俺に触れると、痛みが分かるようになった。
そのまま、その通りの場所に。
俺の感覚は、そっくりそのまま獄寺君に移ってしまったんだ。

ジャンニーニは、それを治すための兵器を開発中らしいけど、殆ど出来ていないらしい。
それが上手く出来るまで、俺達はこの不思議な境遇に有り続けなければならなかった。
…俺は、良いけど…
獄寺君は、辛いと思う。
俺に触ると、俺が怪我したり、病気だったりしたらそのままの痛みを感じるんだからさ…
前みたいに、任務から帰って、すぐに一緒に居たりしても、怪我してたらあんまり触れられない。
近くに居るのに…
触れたら、君が…辛いから。
だから自分が辛いのは我慢するよ…


「十代目」
「うひゃぁっ!?」
ぼんやりしていたら、急に声をかけられたから、変な声出しちゃったじゃん…!
「…っ…」
ほら、そこっ!声を殺して笑わない!!
…と言うか…そんなに涙が出るほど笑わないでよ…
「もー…」
むっ、と頬を膨らませて見せると、獄寺君は指先でそっと俺の髪を梳き、にっこり笑った…けど…
「痛いよね?」
「…かなり…十代目、痛いです」
「明日、治すよ…」
「分かりました、…7時に、伺います」
「うん…」
ぼんやりしてきた。
体が睡眠を欲しているからだろう。
眠気を感じることは出来なくても、体の感覚…?みたいなものでなんとなく最近分かるようになってきた。
「十代目、おやすみなさい…また、明日…」
少しの間離れるだけなのに。
同じ建物の中なのに。
獄寺君はとても寂しそうな顔をして、俺の額にちゅ、と口付けて歩いていった。
かち、と電気が消えて、暗闇が部屋を支配したのを見て、すぐに俺は眠りに落ちて。

静かに、夜は去っていった。
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