Novel

□太陽と向日葵
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いつからだろう?
最初はただ怖くてたまらなかったのに。
なぜこんなに目で追うようになってしまったんだろう‥?



『太陽と向日葵』



〇月×日県大会決勝リーグ初日。
澄み渡った青空の下で、藤井は松井と佇んでいた。
「遅れてごめーん!!」
肩までの黒髪をなびかせて、晴子が駆け寄ってくる。
「晴子遅すぎ!‥って、何その荷物??」
ぷっくりした唇を尖らせて、松井が尋ねた。
晴子の手には空のペットボトルが入った紙袋が握られている。
「今日は決勝リーグ緒戦。しかも相手は強豪海南だもの。今まで以上に気合い入れて応援しなくちゃ!!」
「海南ってそんなに強いの?」
意気込む晴子に藤井が尋ねる。
「そーよぅ。なんてったって16年連続県大会優勝校なんだから!!」
「それって結構きびしくない?ウチって初戦敗退ばっかなんでしょ」
松井がいつもの調子でズバッと指摘すると、晴子は慌てて「大丈夫よ!」と否定した。
「去年までとはメンバーが違うんだから!お兄ちゃんを筆頭に、流川くんや桜木くんもいるもの。絶対いい勝負になるわ!」

その晴子の言葉に、藤井はドキッとする。
桜木くん‥晴子に片思いしてるバスケ部員。背が大きくて髪が赤くて、すごく力が強い。
近寄りがたくて怖いから‥だから目で追ってしまうのかな??

「‥ってゆーか晴子の場合は『ルカワくんがいるから』でしょ」
松井につかさず突っ込まれて、晴子は頬を真っ赤に染めた。
「ちっ‥違うわよぅ。私は純粋に湘北バスケ部を応援してるんだから!」
「別に否定しなくてもいいけど。‥確かにあの人、バスケしてるときはカッコイイもんね」
「でしょ?そーでしょ!?」
思わぬ賛同に、晴子は思わず松井の両手を握ってしまう。
「‥でもあたしは元不良の三年生‥三井さんだっけ?あの人の方がタイプ。」
「三井さんもステキなんだけど‥ルカワくんは別格なのよぅ!!」
「はいはい。まぁ好みはそれぞれだしね。‥藤井ちゃんはどうなの?」
晴子と松井が振り返ると、藤井はぼんやりと宙を見つめている。
「‥藤井ちゃん?藤井ちゃんってば!!」
晴子が叫ぶとはっとしたように振り返り、いつもの穏やかな口調で「なぁに?」と微笑んだ。
「どうしたのよぅ。藤井ちゃん、具合でも悪いの?」
「そんなんじゃないけど‥」
考え事をしてた、しかも桜木くんの事を考えてたなんて恥ずかしくて言えない‥。
先に続ける言葉を探していると、後方から「晴子ちゃーん!」と叫ぶ声がした。
「洋平くん!みんな!!」
三人が振り返ると、水戸たち桜木軍団がペットボトルを片手に大きく手を振っている。
「皆も持ってきてくれたのね、応援道具。」
晴子が自身が持っているペットボトルを差し出すと、高宮と大楠が「たりめーよ!」とペットボトルをあてがった。
「なんてったって、今日は花道の決勝リーグ退場デビュー戦だからな!」
「連続退場記録更新なるか!見物だよな〜。」
「だめよぅ!二人とも、ちゃんと応援しなきゃ!!」
頬を膨らませて怒る晴子を見て、水戸はハハッと静かに笑った。
「‥まぁ、大活躍するか退場記録更新するかは試合見てからのお楽しみってことで。結構混んできたし、早めに席取っとこうぜ。」
左手に持ったペットボトルを肩に乗せ、会場に向かって歩いてく。
「洋平くんの言うとおりだわ!私たちも一生懸命応援しましょ!!」
気合い十分の晴子の後をついていく藤井は、先刻沸き上がった疑問が心の隅っこから離れずモヤモヤとしていた。
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