short novel
□「愛してるって言って?」
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いつもと変わらずあなたは無言で出て行く
「待って」
まだ夜明け前の薄暗い部屋の中で、私は彼を呼び止めた
彼は片手で上着を背負いながら半分だけこちらを向いた
「…今度はいつ会える?」
不定期に訪れる彼を、私はただ待つことしか出来ないから
「…分からない」
会いたい時にいくら会うことを望んでも
「…そう」
その想いは儚く散っていく───
「……」
私は彼の背中に縋り付き、顔を寄せた
「ねぇ」
だから今だけは───
「愛してるって言って?」
「……」
しかし彼は何も言わず、ただ静寂があるのみ
あなたの愛を確かめたくて───
その瞬間、耐えられず涙がこぼれた
すると目の前の背中が反転し彼が私の額に口づけた
私が顔をあげると彼は僅かに哀しそうに微笑んで、部屋を出て行った
「……っ」
彼の唇が触れた額と目元と胸の奥が無性に熱い
私はその場にしゃがみこみ、一人涙を流しながら朝を迎える
───あなたの愛はいつだって、消えぬものだと信じているから───
end...
→あとがき