宝絵巻
□罠
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「静かに。あのうるさい三人が来ても、良いんですか。」
薬売りは樹里を自分の部屋に引き入れ、障子を閉めると、間髪いれずに彼女の小柄な体を、敷いてあった布団の上に押し倒した。
押し倒した、と言ってしまっては乱暴なのだが、樹里の体を扱う薬売りの手は、限りなく優しいものだった。
樹里はといえば、何が起きたのか把握出来ず、自分を見下ろす薬売りを見つめることしか出来ないでいた。
「薬売り、さん…?」
薬売りは何も言わず、樹里の頬を撫でたり、髪の毛を指に絡めて遊んだり。
暫くそうしていたが、何かに弾かれたように突然、薬売りは自分の唇を樹里の唇に押し当てた。
幾度となく角度を変えながら、幾度となく舌を絡ませ、それは次第に激しいものになっていった。
最初は戸惑っていた樹里も、いつしか薬売りの魅力に惹きこまれ、その唇の動きに応えていた。
「薬売りさん…っ!」
「ずっと、我慢していた。」
あの三人が、樹里に話しかける度に、そして触れる度に。
「嫉妬していた。狂いそうなくらい、ね。…だが、我慢していたお陰で、上手くいった。」
「な…何が、ですか?」
「樹里さんは、あの三人に追い掛け回され、困っていた。」
苦笑いでそれに頷く樹里。
「ならば俺は、あの三人とは違うことをしてみよう。俺が、貴女に関心を持たずにいれば逆に、貴女が俺に関心を持ってくれるんじゃないか…。」
薬売りが仕掛けたその罠に、樹里はまんまと引っ掛かったのだ。
「俺のこと、気になって、気になって…仕方なかったんじゃないですか?」
図星をさされた樹里は、頬を染め、頷いた。
「貴女はもう、俺の物だ。」
赤い隈取に飾られた瞳に見つめられ、樹里の心臓は、壊れるのではないかという位、激しく脈打っていた。
薬売りの手が、樹里の着物の帯に掛かる。
良い具合に帯が緩んだところで、次は襟元が開かれたが、急に羞恥心が湧き出てきた樹里は、慌てて胸元を隠した。
「これは、困りましたね。」
首筋に舌先を這わせ、樹里を快楽に泳がせ、彼女の力が抜けてきたのを見計らい、胸を隠しているその手をどけた。
「こんなに綺麗な身体なのに、何故、隠す必要があるのです?」
息を荒げている樹里は、返事をする余裕も無い。
やがて二人の身体は欲情に包まれ、その誘惑に誘われるままに、互いを求め合った。
心地よく結ばれた心と心。
強く絡まった、身体と身体。
どんなに、どんなに求めても、足りないくらい。
「愛してる。」
二人の口から零れる言葉は、ただそれだけだった。
−罠−終幕
→後書