宝絵巻
□初恋
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だがそれは、薬売りも同じだったようで。
「薬売り、お前が何故ここに!?」
「小田島様こそ、何故。」
「何故も何もあるか!樹里は俺の妹だ!」
ということは…と薬売りは、久方ぶりに再会した小田島を凝視する。
「知り合い、だったのですか?」
愛しい樹里の声も、二人の耳には届いていない。
薬売りは、ぽつりと呟く。
「俺があんたのようになるのは、何千年かかっても、無理そうだ。」
「何をぶつぶつ言ってる!」
「いや。樹里さんが欲しくて、樹里さんの理想とするあんたの事を見に来たんだが。」
小田島は慌てて樹里を自分の腕に抱き入れた。
「樹里はやらんからな!」
兄の顔と薬売りの顔を、交互に見やる樹里。
薬売りは無言で立ち上がる。
「薬売りさん?」
「旅の途中なんでね。もう行きますよ。」
諦めたのか、はたまた、小田島と話して疲れたのかは分からないが、薬売りはその家を出た。
「待ってください、薬売りさん。」
「樹里さん。見送りに来てくれたんで。」
樹里は薬売りに歩み寄ると、そっと彼の手を握った。
「また、会いに来てください。」
待っていますから、と樹里は背伸びをし、薬売りの頬に唇を軽く触れさせた。
「兄様には、内緒ですよ。」
樹里は照れくさそうに微笑み、同じく微笑んでいる薬売りに手を振った。
大好きな兄とは、正反対。
そんな男が、初恋の相手。
−初恋−終幕
→後書