宝絵巻


□初恋
2ページ/3ページ


だがそれは、薬売りも同じだったようで。

「薬売り、お前が何故ここに!?」

「小田島様こそ、何故。」

「何故も何もあるか!樹里は俺の妹だ!」

ということは…と薬売りは、久方ぶりに再会した小田島を凝視する。

「知り合い、だったのですか?」

愛しい樹里の声も、二人の耳には届いていない。

薬売りは、ぽつりと呟く。

「俺があんたのようになるのは、何千年かかっても、無理そうだ。」

「何をぶつぶつ言ってる!」

「いや。樹里さんが欲しくて、樹里さんの理想とするあんたの事を見に来たんだが。」

小田島は慌てて樹里を自分の腕に抱き入れた。

「樹里はやらんからな!」

兄の顔と薬売りの顔を、交互に見やる樹里。

薬売りは無言で立ち上がる。

「薬売りさん?」

「旅の途中なんでね。もう行きますよ。」

諦めたのか、はたまた、小田島と話して疲れたのかは分からないが、薬売りはその家を出た。

「待ってください、薬売りさん。」

「樹里さん。見送りに来てくれたんで。」

樹里は薬売りに歩み寄ると、そっと彼の手を握った。

「また、会いに来てください。」

待っていますから、と樹里は背伸びをし、薬売りの頬に唇を軽く触れさせた。

「兄様には、内緒ですよ。」

樹里は照れくさそうに微笑み、同じく微笑んでいる薬売りに手を振った。

大好きな兄とは、正反対。

そんな男が、初恋の相手。




−初恋−終幕



→後書
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ