宝絵巻


□独占欲
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二人寄り添い町を歩けば、誰もが振り返る。

互いに互いを最高の恋人、と誇らしく思っていた。

そんな二人に声を掛ける男が、一人…。



−独占欲−



「お二人さん。良かったら、描かせてもらえないかい?」

日に焼けて黒くなった肌は、なんとも健康的。

人懐こそうな瞳を二人に向け、白い歯を見せて笑う青年は、手に持った筆を、空中に泳がせた。

樹里の視線はそれに奪われる。

「絵師さん、なんですか?」

「いやぁ、まだまだ修行中の身で。」

絵師見習いだと言うその青年は、こうして町中で通行人を捕まえては、その似顔絵を書き、修練を積んでいるという。

「薬売りさん!」

「俺はやめておく。」

樹里の言いたいことを悟った薬売りは、手早く会話を終わらせた。

「帰ろう、樹里。そのうち雨が降る。」

真っ青に晴れ渡った空を見上げ、樹里は首を傾げる。

「雨が降ってきたら、すぐに帰るわ。」

「駄目だ。濡れたら風邪をひく。」

「少しくらい、構わないじゃない!」

とうとう樹里は頬を膨らませ、薬売りに抗議し始めた。

「第一、こんな天気良いのに、いつ雨が降るのかしら。」

もちろん薬売りとて、本気で雨が降ると思ったわけではない。

薬売りは横目で睨むように、絵師見習いの青年を見た。

「お嬢さん。そんなに膨れちゃあ、せっかくの美人が台無しってもんだ。」

青年の言葉に慌てて、樹里は恥ずかしそうに笑う。

対照的に薬売りの表情は、眉間に皺が寄り、不機嫌そのもの。

「薬売りさんは先に帰ってて。私は描いてもらうから。」

樹里はそう言うと、薬売りの返事も待たずに絵師の元へと走った。

嫉妬というどす黒いもやが、薬売りの胸中を侵食してゆく。

だが、それを樹里に伝える由もない薬売りは、一人佇んで彼女の様子を見つめていた。

樹里が他の男といるのを放って、先に帰るわけにもいかなかった。



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