宝絵巻
□独占欲
1ページ/3ページ
二人寄り添い町を歩けば、誰もが振り返る。
互いに互いを最高の恋人、と誇らしく思っていた。
そんな二人に声を掛ける男が、一人…。
−独占欲−
「お二人さん。良かったら、描かせてもらえないかい?」
日に焼けて黒くなった肌は、なんとも健康的。
人懐こそうな瞳を二人に向け、白い歯を見せて笑う青年は、手に持った筆を、空中に泳がせた。
樹里の視線はそれに奪われる。
「絵師さん、なんですか?」
「いやぁ、まだまだ修行中の身で。」
絵師見習いだと言うその青年は、こうして町中で通行人を捕まえては、その似顔絵を書き、修練を積んでいるという。
「薬売りさん!」
「俺はやめておく。」
樹里の言いたいことを悟った薬売りは、手早く会話を終わらせた。
「帰ろう、樹里。そのうち雨が降る。」
真っ青に晴れ渡った空を見上げ、樹里は首を傾げる。
「雨が降ってきたら、すぐに帰るわ。」
「駄目だ。濡れたら風邪をひく。」
「少しくらい、構わないじゃない!」
とうとう樹里は頬を膨らませ、薬売りに抗議し始めた。
「第一、こんな天気良いのに、いつ雨が降るのかしら。」
もちろん薬売りとて、本気で雨が降ると思ったわけではない。
薬売りは横目で睨むように、絵師見習いの青年を見た。
「お嬢さん。そんなに膨れちゃあ、せっかくの美人が台無しってもんだ。」
青年の言葉に慌てて、樹里は恥ずかしそうに笑う。
対照的に薬売りの表情は、眉間に皺が寄り、不機嫌そのもの。
「薬売りさんは先に帰ってて。私は描いてもらうから。」
樹里はそう言うと、薬売りの返事も待たずに絵師の元へと走った。
嫉妬というどす黒いもやが、薬売りの胸中を侵食してゆく。
だが、それを樹里に伝える由もない薬売りは、一人佇んで彼女の様子を見つめていた。
樹里が他の男といるのを放って、先に帰るわけにもいかなかった。
→