□冥姫 第五十二話
2ページ/7ページ




「我々は咎人の咎を払い、魂を浄化するのが仕事、皆 誇りをもってやっています」

「いや、あんたらを疑ってるわけじゃねェんだ、ただ技を……」

「と、本来なら言うのですが
残念ながら首が池田家の者が関わっているのを物語っている。

一見、抱き首にも見えるこの斬り口、皮一枚が癒着しかけているので抱き首に見えるのです。

これは魂だけを抜き去る妙技、
池田家に伝わる抱き首の極致
魂(きも)あらいです。

池田家でも使えるのは、今は亡き先代 夜右衛門、もう一人は私」


使えるのが一人だけなら事件は解決する。


「まだいるんだろ」

「正確には、いた、ですけどね
現在は出奔中(しゅっぽんちゅう)
多くの咎を払い、先代よりも美しいと称される技、
当主の証である夜右衛門の名を継ぐ事を約束されるも、師である先代の首を手にかけ、我ら一族を裏切った謀反人

あれこそ、まさしく死神」




実況検分を終え、池田さんを送ったあと私たち三人はパトカーで帰路についていた。

二人は少し思うことがあって考えているのか、無言だ。

そんな中、私も何か釈然としないものを抱えていた。



翌朝

廊下で柱に寄り掛かっている沖田さんがいた。


「何してるんですか?」

「ちょいと調べたら面白いことが分かってねィ
これから土方さんに報告するんだが一緒にいかねェか」


快諾した。


土方さんの部屋でとりあえず腰を落ち着け、沖田さんが話し始める。


「辻斬り犯は池田家に捕らえられたようです」


土方さんは軽く驚き、私も軽く驚いた。


「下手人が誰か分かっていた池田家に、まんまと出し抜かれたようで。
一族の不始末は一族で消したみたいです」

「首斬り役人の一族だからって権限もないのに自分達で裁こうってのか
ふざけんな、さっさと引き渡し要求しろ」

「残念ながら、もう首だけでさァ」

「なんだと!?」

「随分、早いですね」


見つけた瞬間に斬ったのかと思う早さ。


「引き渡し先は見廻り組
審判の結果、即日打ち首が決定
処刑執行人は池田夜右衛門」


土方さんが反論をするが、反論の言葉を遮るように沖田さんが検視の確認書を見せる。


確認書には沖田さんが言ったとおりのことが書かれてあった。


さらに沖田さんの口から衝撃の事実が語られ、しばし沈黙が流れた。


「お前ら、納得できるか?」


私と沖田さんの答えはもちろん否(いな)


「首は?」

「死体は今夜、他の死体と一緒に運ばれるそうです」


公儀処刑人が諸公の試し斬り用の死体を手配しているという話を聞いたことがある、

処刑された死体は、お試御用が管轄しているから、手配も容易(たやす)いのだろう。

 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ