□冥姫 第五十二話
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最初の辻斬りがあったのが数週間前。


死体が奇妙だった。


首を斬られているのだが、皮が残っていた、

首の皮一枚。


それがさらに二件続いた。


すっかり話題になってしまった事件、巷(ちまた)では死神の仕業なんじゃないかという噂が流れている。


死神ねぇ…。

死神は農夫であり、魂が迷わないよう連れていく
悪戯に魂を奪う存在ではない。


つまり本当に死神なら、こんなやり方はしない

死神が刈り取るのは魂であって首ではないのだ。


そんなことを考えていたら土方さんに呼ばれた。


「宮中、件の辻斬りだ」


顎で付いてこい、の動作をしたので付いていく。


用意されていたパトカーに乗って現場に向かった。



現場には沖田さんや鑑識が数人いて調査している。


「またか」

「ええ、これで四件目、死神ってのは随分な働き者なんですね」


土方さんと沖田さんは死体を観察しながら軽口を交わす。


相変わらず鮮やかな切り口を見て、土方さんが私に出来るか聞いてきた。


「やったことないので分かりません。
でも、まな板の上に乗った魚の首なら包丁で切り落としたことがありますよ」


本来は首ではなく頭というほうが正しいけど、流れで首と言った。


「総悟はどうだ」

「俺もやったことはありやせん。
試していいならやりやすよ、
副長の首ならうまく出来そうなんで協力お願いします」

「アリバイ聞いてんだよ」

「俺は一晩中、土方さんを狙ってましたよ
企てを実行する機会を伺って」

「何やってんだ、お前は」


二人は淡々としていた。


「俺以外にも出来る奴なんざ大勢いやすよ。

抱き首って知ってやすか
介錯人が切腹人の頭を落として汚さないように首の皮一枚を残して斬る
この作法を抱き首といって、これを通す者もあったとか」


抱き首、聞いたことがある。


「沖田殿、つまり今回の一連の犯行は、我々首斬り役人の仕業であると言いたいのですか」


現場に向かう途中、捜査協力のためと言って一緒に来てもらった人、池田さんが間に入ってきた。


「どちらさんで」

「捜査協力のため来てもらった
公儀御試御用(こうぎおためしごよう)
十八代目、池田夜右衛門(いけだやえもん)殿だ」


池田さんは少し困ったように笑っている。


「公儀御試御用?」


馴染みのない言葉に沖田さんが疑問で返した。


「将軍家に納められる刀剣の管理をしています、刀剣の試し斬りもね
試し切りが罪人の首であることは知っているでしょう

公儀で預かった罪人の首を斬る処刑執行人一族、
陰では死神と揶揄されているのも知っております」


いつの時代も、そういう役職の人は存在する。

 
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