「美月ちゃん」
沖田さんに呼ばれて目を向けると片手を上げている。
その手を手でポンと叩き、タッチ交代。
「近藤さん」
沖田さんが声を掛けた。
「あん!?」
「今のままじゃ、バカップルだけじゃなく罪のない市民まで怯えちまいまさァ
祭りを念頭に入れて見回りしやしょう」
念頭の結果、
お面にフンドシ、右手に刀、左手に太鼓
近藤さんじゃなかったら不審者にしか見えない格好。
「浴衣でイチャつく悪いカップルはいねーが!」
悪い子を戒める鬼と似たようなことを言いながらも、内容がかなり違う。
「総悟……悪化してる」
「警察に通報されそうですね」
「通報されても近藤さんなら逃げ切れる
お面被ってるし、真選組だとバレる心配はないでしょ」
「トカゲのシッポ切りか」
「俺はこれから、たこ焼きが冷凍食品のたこ焼き使ってないかパトロールしないといけないんで」
「待て!俺もお好み焼きに冷凍してたマヨネーズ使ってないかパトロールする」
フォローの達人まで「もうしらね」と、あっさり投げ出した。
しょうがない、私だけで監視しよう。
「美月ちゃんも行きやしょうぜ」
右手首をがっしり捕まれた。
「そうだな、そうしろ」
左手首をがっしり捕まれ、強制連行された。
考えようによっては両手に花なのに、ちっとも嬉しくない。
理由は分かっている
手首を捕まれてるからだ。
これじゃ犯人みたいに見えるよね。
私の半歩前を歩く二人の顔を見た。
私より高い目線、ふいに二人の視線が交わった気がした一呼吸あと、手が手首から離れて、私の手を絡め取った。
二人と手を繋ぐ。
いつ以来だろう、こんなふうに手を繋ぐのは。
小さい頃 弟の手を引いていた
私の手を引いてくれたのは…兄上……
私の手を引いて微笑む、在りし日の兄上が一瞬見えた気がした。
するりと二人から手を離す。
二人が立ち止まり、私を振り返る。
「あ、あの…どこで誰が見てるかわからないし、もし お二人の本命さんに見られたら、有らぬ誤解を招くかもしれませんよ」
もっともらしい言い訳だったと思うけど、二人は複雑な表情をした。
嘘がバレたのかと少し緊張する。
「お前……鈍感って言われたことないか」
なんだろう突然。
土方さんの質問を訝(いぶか)しく思いながら記憶を巡る。
どうだったかな、言われたような、言われなかったような。
「覚えてないです。
覚えてないってことは言われたことがないからだと思います。
あっ、でも、土方さんが言ったのと同じようなことは何回か言われました」
お前、鈍感って言われないか?って。
だから言われたことのない私は、言われないですって答えていたのを思い出した。
少しの思案顔を見せ、土方さんが口を開く。
「参考に聞かせてくれ、
仮にお前を慕う奴がいたとして、告白されたらどうする」
唐突に恋愛相談された、まあ恋愛話になるきっかけを作ったのは私だけど。
告白かぁ……
「私なら……困ります」
そうとしか言いようがない。