宮中は綺麗に微笑んでいる。
ただし いつもの笑顔ではない、
冷たい愛想(あいそ)笑い。
見ただけでそれ以上 入ってくるなと線引された気分になる笑顔だった。
これ以上追求するなら愛想笑いだけの関係になる、という意思表示に見えなくもない。
すぐにもう一つの疑問に切り替える。
「───あ…のとき言ってただろ
女の過去を聞くなって」
「言いました」
笑顔が消えていつもの表情に戻った。
「誰に言われた
いや、誰に教えてもらった」
宮中の反応を見て、強気にでても問題なさそうなのでハッタリでカマをかけてみた。
一瞬、宮中の目が泳ぎかけた。
「誰の受け売りだ?」
今度は確信をもって答えた。
「……母上です…」
観念したように言った。
俺の中に浮かんだ違和感はこれだったのか
まだ男を知らない子供が、さも知っているように見せかけていた
これこそが俺の違和感の原因だった。
「お前なァ……意味わかって言ったのか」
「まあ、だいたいは」
この様子じゃ、なんとなく解っている程度だろうな。
「ああいうことはホイホイ言うもんじゃねェぞ」
「はい、すみませんでした
言ってもその内 笑い話になると思ってました」
「笑い話って…お前なァ」
自然とため息が出た。
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出来上がった書類を土方さんに渡しに行ったところ、迂闊なことは言うなと心配されて淡々とお説教された。
やはり私では無理があったらしく、あっさりバレた
バレても困らないけど少し恥ずかしい。
「まったく…言ったのが俺達だからよかったようなものの、相手によっては取り返しがつかなくなることもあるんだぞ」
母上と同じようなことを言われた。
「お言葉ですが、土方さん達が相手だからこそ使いました」
反抗と捉えられるかもしれない
それでも誰にでもホイホイ使うと思われたままは嫌だった。
反省してない、と怒られるかな。
土方さんは怒るでもなく、困ったような、納得いかないのを無理に納得しようとしているような、苦虫を噛み潰したような、
他にも色んな感情が入り交じった私からしたら不思議な表情をしている。
私の言葉を聞いて何を思えば こういう表情になるんだろう?
それともこういう表情になる記憶でも思い出したのか。
「宮中……ちょっとこっちに座れ」
「はい」
いよいよ さらなるお説教かと思いつつ、近くに座った。
「………」
「………」
土方さんの言葉を待つ私と喋らない土方さん
自然と見つめ合う形になる。
土方さんの片手が自身の額を覆い、ため息を吐かれた。
「……?」
意図がまったく読めない。
「お前なァ……もっと警戒心を持て」
なんの?
「呼ばれたからってホイホイ近づくな」
「でも土方さんは副長で、私の上司です」
命令に従ったのが何か問題あるのかな。