□冥姫 第四十八話
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宮中の口から飛び出した言葉に、あの場にいた全員が驚愕して動揺して絶句した。


今も想う、想い人がいる。


その言葉が頭の中にへばりついて離れない。


それは寝ているときにも当てはまり、眠りは以前より浅くなった。


さらに、このまま手を拱(こまね)いているだけでいいのか?
という焦燥感に駆られるも、俺が入院していた時 見た あの日の表情がアクションを起こそうとする俺を止める。

小さな表情の変化の中に驚き、戸惑い、困惑だけを押し込めたあの日の表情が。


だから焦燥感だけが増していく。


それに苦しい、理由は分かり切っているが解決策が分からねェ。

苦しみは降り積もり、苦痛だけが増していく。



降り積もる日々が続く内 宮中を視界に入れるだけで苦痛になっていった。


紅いバラの花言葉は
死ぬほど恋こがれています、だったよな。


なんで略奪愛なんて言葉が存在してるのか分かるぜ。

今の俺と同じ心境の奴がいたからだろ。

だがあの日見た表情が俺を止める。


堂堂巡りとはこのことだ。



「最近 機嫌が悪いみたいですけど何かあったんですか」


部屋に来た宮中に言われてイラついていることに気付いた。


「なんでもねえよ」


視界に入れたくなくて目を逸らす。


「なんでもないなら───」

「うるせえ!!
元はと言えばお前が!」


お前が…想い人がいるなんて言うから……!


……思わず怒鳴っちまった、

反射的に宮中を見た。

急に怒鳴られたせいで驚いた表情が困惑に染まっていく。


「私…土方さんを怒らせることをしてたんですね、すみませんでした。
本来なら自分で気付くべきなんでしょう
でも自分では気付けませんでした
ですから教えてください」


そらそうだろう、宮中は何も悪いことはしていない、ただ好きな奴がいるだけで どう考えても俺の八つ当りだ。


宮中を見た
視線を逸らさず見つめる。


こんなに堂堂巡りでイラつくのはそれだけお前に惚れてるから。

それを理由にして本人に八つ当りか
俺も焼きが回ったな。


「悪い、今のは言葉のあやで怒鳴ったのは八つ当りだ、お前が謝ることはない」

「本当ですか」


疑ってきた。


「お前に嘘を言ってどうする」


宮中が俺の眼をジッと見つめてきた
もう視線を逸らすのはやめだ

でないとお前が見えない。


「宮中」

「はい」

「茶が飲みたい、淹れてきてくれるか」


自分でも空気が変わったのが分かる。


「淹れてきます」


微笑んで部屋を出ていく宮中を見送る。


俺はあいつを傷つけたくない

だから焦燥感も苦痛もイラつきもいらねェ。

略奪愛は保留。

 
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