宮中の口から飛び出した言葉に、あの場にいた全員が驚愕して動揺して絶句した。
今も想う、想い人がいる。
その言葉が頭の中にへばりついて離れない。
それは寝ているときにも当てはまり、眠りは以前より浅くなった。
さらに、このまま手を拱(こまね)いているだけでいいのか?
という焦燥感に駆られるも、俺が入院していた時 見た あの日の表情がアクションを起こそうとする俺を止める。
小さな表情の変化の中に驚き、戸惑い、困惑だけを押し込めたあの日の表情が。
だから焦燥感だけが増していく。
それに苦しい、理由は分かり切っているが解決策が分からねェ。
苦しみは降り積もり、苦痛だけが増していく。
降り積もる日々が続く内 宮中を視界に入れるだけで苦痛になっていった。
紅いバラの花言葉は
死ぬほど恋こがれています、だったよな。
なんで略奪愛なんて言葉が存在してるのか分かるぜ。
今の俺と同じ心境の奴がいたからだろ。
だがあの日見た表情が俺を止める。
堂堂巡りとはこのことだ。
「最近 機嫌が悪いみたいですけど何かあったんですか」
部屋に来た宮中に言われてイラついていることに気付いた。
「なんでもねえよ」
視界に入れたくなくて目を逸らす。
「なんでもないなら───」
「うるせえ!!
元はと言えばお前が!」
お前が…想い人がいるなんて言うから……!
……思わず怒鳴っちまった、
反射的に宮中を見た。
急に怒鳴られたせいで驚いた表情が困惑に染まっていく。
「私…土方さんを怒らせることをしてたんですね、すみませんでした。
本来なら自分で気付くべきなんでしょう
でも自分では気付けませんでした
ですから教えてください」
そらそうだろう、宮中は何も悪いことはしていない、ただ好きな奴がいるだけで どう考えても俺の八つ当りだ。
宮中を見た
視線を逸らさず見つめる。
こんなに堂堂巡りでイラつくのはそれだけお前に惚れてるから。
それを理由にして本人に八つ当りか
俺も焼きが回ったな。
「悪い、今のは言葉のあやで怒鳴ったのは八つ当りだ、お前が謝ることはない」
「本当ですか」
疑ってきた。
「お前に嘘を言ってどうする」
宮中が俺の眼をジッと見つめてきた
もう視線を逸らすのはやめだ
でないとお前が見えない。
「宮中」
「はい」
「茶が飲みたい、淹れてきてくれるか」
自分でも空気が変わったのが分かる。
「淹れてきます」
微笑んで部屋を出ていく宮中を見送る。
俺はあいつを傷つけたくない
だから焦燥感も苦痛もイラつきもいらねェ。
略奪愛は保留。