□冥姫 第四十七話 前編
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昔々、ある所に殿様と家来がいました。

この殿様の奥方は国一番の美しい姫で殿様をとても大切にしていました。

でも殿様は姫のそんな気持ちを利用し、彼女を牢獄に入れヒドイ事ばかりやらせていたのです。

だから姫は毎日牢獄で泣いていました。

そんな姫が哀れで、家来はいつも姫の涙をふいてあげていたのです

そう いつからか彼は…姫に恋をしていたのです。

でもそれは叶うはずのない身分違いの恋、彼は想いを胸に秘め、彼女の涙をふきつづけました。

そんな彼の想いを知ってか知らずか殿様は姫に飽き、彼女を殺してしまうよう家来に命じたのです。

主人の命令は絶対…逆らえば命はありません
でも彼は愛する人を殺める事はできませんでした。

代わりに二人は約束したのです。
一緒に牢獄から抜け出そう
次の満月の晩あなたをさらいに来る。

そうして二人はお互いの髪を小指に巻き付け、指切りげんまんを交わしました。

でも次の満月の晩も、その次の満月の晩も、姫の元に彼が来ることはありませんでした。

殿様はすべてを知っていたからです

殿様は指切りしたほうの腕を斬り落し、会えば姫様を殺すと言い
二人の約束は死よりも重い鎖に変わりました。


だから彼は決めたのです
たとえ何度月が通り過ぎようとも
たとえシワだらけの醜い老人になろうとも
たとえ姫様が彼を忘れようとも
彼女と会える日まで生き続けようと

そうして家来は今も三本の足で這(は)いつくばりながら生きているのです。


そこで牢獄から聞こえてきた昔話は途切れた。


話しを聞いている内に連想ゲームのごとく昔にあった未解決の事件が頭をよぎり、察しがついた

昔話には真相が隠れていた。


きっと殿様は定々公、家来は六転さん、姫は吉原の…誰だったか。


その昔 定々公…いや、定々が将軍に勅命されたとき他の有力者は一人も残っていなかった。


全員 吉原で殺されたのだ。


その殺人現場にはいつも同じ花魁がいたという、
たいそう有名な太夫だったとか。

当時は一部かもしれないけど かなり話題になったと思う

だって何十年も前の話なのに私たちが知っているから。


「開けてくれ」


近藤さんの命に従い、扉の近くにいた隊士さんが扉を開けた。


「モタモタするな、処刑の時間だ」


そう言って近藤さんは囚われていた坂田さん達の武器をガシャンと投げた。


坂田さん達は武器を持ち、牢獄を出ていった。


「過激な攘夷浪士みたいだな
将軍が相手だとよ
こんな近くに攘夷浪士より危険な連中がいやがった

だがあの背中 拝むのも今日が最後かもな」


僅かな笑みを浮かべた近藤さんは言ったあとも小さくなっていく背中を見ている。

 
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