□冥姫 第四十七話 前編
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坂田さん達は今回の黒幕は定々公だと言っていたそうだ。

それが真実だと思った、だって坂田さん達の取り調べなしで明朝処刑なんて普通ならあり得ない。


「トシ」

「………」


近藤さんは土方さんに意見を求め、土方さんは沈黙する。


…さっきからあそこの茂みに誰かがいる。

一瞬 定々公の手の者かと思ったが、ここまで気配を消さないのは有り得ない。

例えるなら、子供のかくれんぼのよう。

二人ももちろん気付いている。


「近藤さん俺たちの仕事はなんだ、江戸を護ることだろ

上の連中がくだらねェ争いしてたのは、目の前に突き付けられなかっただけで元々あったことだ

定々公や肥えた豚共が共食いしあおうが知ったこっちゃねーよ」


今まで見えなかっただけだ
見えたからってなんだってとこかな。


土方さんの話しを聞きながら茂みに一応注意を向け続けていた。


茂みがガサッと音をたてて隠れている人が見えた、

あそこに隠れてるの……そよ姫様だ。


土方さんと近藤さんが一瞬で私に目配せしてきた。


「このままにしておくのか?
それじゃその豚とかわらんだろ」

「やぶへびで首つっこんで見廻組と同じ道をたどりたいか?」


何事もなかったように二人は話しの続きを演じる。


「トシ 俺達ゃこんなことをするために侍になったわけじゃねェ」

「近藤さん 俺達が侍でいられんのは豚共がいるからってことを忘れちゃいけねェ」


二人の口調が除々に荒くなってきた。


「士道も通せなくてなにが侍だ
形だけの侍なら攘夷志士の方がまだマシだ」

「その形だけの侍がなけりゃ士道どころか護るモンも護れねーんだよ!」

「その護るもんが今ここにあるだろうが!」

「まあまあ、二人共落ち着いてください」


私も演技に交じった。


二人はギッと私を見たあと
またお互いの方を向く。


「こんのわからず屋が!宮中も言ってやれ!」

「てめーの組織論はウンザリだ!美月ちゃんも言ってやれ!」

「てめーこそキレー事ばっか並べやがって!
大体元将軍なんて逮捕できるわけねーだろ!」


売り言葉に買い言葉を演じる二人の息はぴったりだ。


ケンカを止める役を演じるべく隊士さんたちが仲裁に入ってきた。


ほぼ乱闘。


その混乱に乗じて布団をもったそよ姫様が牢獄の中に入っていく。


扉が閉まる瞬間 一人の隊士さんが牢獄の鍵を投げ入れた。


姫様が牢に入ったと隊士さんがジェスチャーで知らせると嘘のように乱闘は終わり、皆 扉の近くに座る。


暫く待っていると、そよ姫様がよく爺やさんに聞かされた、という寝物語が始まった。

 
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