□冥姫 第四十六話
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土方さんの手が唐突に伸びてきて、私の頭をポンポンと撫でた。


???


キョトンとする私をおいて土方さんは進行方向に歩いていく。


「……近藤さん」

「なんだ」

「やっぱり土方さんを早めに退院させたのは、間違いだったんじゃないでしょうか」


土方さんの強い要望で早期退院させたんだけど
佐々木と戦ったときの弊害が今になって表れたのでは?


「早期退院が原因ではないと思うがなァ」


近藤さんは苦笑した。



‐‐‐



山崎さんを見なくなって一ヵ月以上たった日。


「ぎゃああああぁぁ」


近藤さんの部屋の近くの廊下を歩いていたら近藤さんの悲鳴?が聞こえた。


「何事ですか!」


慌てて近藤さんの部屋に入ると、焦ったような近藤さんと、頬に青筋をたてて報告書を見ている土方さんがいた。


「これ見てみろ」


土方さんに渡された報告書には延々と“たまさん”と書かれている。


字の大きさも不揃(ふぞろ)いで殴り書き、冷静な人が書いた物とは思えない。


「これは…おまじないですか?」


緑色のペンで百回願いを書くと願いが叶うおまじないの話を聞いたことがある。


でも文字は緑色ではない。


「万事屋を張り込んでた山崎の報告書だ
あの野郎 肝心な情報なしのうえこのザマだ」

「…山崎さんが……」


このたまさんの羅列がおまじないでなければ
ストーカーしか思い浮かばない。


「近藤さん、警察は廃業してストーカーの予備校でも開設するか」

「こんな陰湿そうなストーカーと一緒にするな!
美月ちゃん、俺こんなサイコじゃないよね!」


近藤さんは明るいストーカー。


「はい、近藤さんは明け透けで明るいストーカーです」


お妙さんに恐怖を与えるような行為はしない。


「張り込み相手を虚妄の執着から恋愛対象として錯覚するというが

まさかホントに惚れちまうたァ
女に免疫のねェ奴は これだから」


土方さんの口から恋愛って言葉がでた

初めて聞いたかも。


「とにかく、これを期に恋愛禁止令を出してくれ
隊を引き締めないと」


間違っても近藤さんには出来ないだろう。


「中学校の校則か
どさくさに紛れて俺の恋路まで潰そうとするな!
だいたいトシ!お前も困るんじゃないんですかっ!」


案の上 近藤さんは反対する。

土方さんが困る?


「い、今 俺のことはいいんだよ」


「美月ちゃんもトシに言ってやってくれ」


協力を要請された。


「要は行動に表すなってことですよね?
想いを胸に秘めてるだけならいいんじゃないですか

それなら構いませんよね」


たとえ命令でも想いは消せない。

 
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