さっきも思ったけど、佐々木さんの眼は覇気がないな。
「慰謝料、スクーターの修理費、あとでダラダラたかられるのも面倒なんで幾らでもこのチラ裏に書いてください」
冗談かと思ったら佐々木さんが持っているのは本当にチラシだった。
「チラ裏だァ!?庶民をバカにしてんじゃねーぞエリートが!!」
チラシを引きちぎりながら坂田さんが怒り
「トイレットペーパーに書いていいですか」
一瞬で怒りは消えた。
トイレットペーパーに0を書き続けているけど100兆を軽く越えている。
その間に佐々木さんが二つ折りにした紙切れをスッと差し出してきたので、疑問に思いながらも受け取った。
隠す様子もなかったので、ここで見ても大丈夫だろう、
紙を開くと沖田さんも興味があるらしく、横から覗き込んできた。
「私のアドレスです、
サブちゃんで登録してメールをください
私は美月タンで登録しますんで」
え、……どうしよう。
「私の携帯は真選組で支給された物なので、私的な使用はできません」
たまに私的に使用することはあるけど、嘘も方便。
この理由なら断っても差し障りないだろう。
「でしたらこれをどうぞ」
佐々木さんの手には携帯が握られていた。
「はい?」
「料金は私が持ちますんでメールをしましょう」
まさか そうくるとは思わなかった。
それになぜこの人は私とメールがしたいんだろう。
本音を言うと断りたい、断りたいが佐々木さんは局長だ、
相手が相手だけに失礼な断り方をしたら問題になりそうな気がする。
考えながら困っていると横から伸びてきた手が佐々木さんの持っていた携帯を引っ掴み、
野球投手のフォームで携帯を遠くに投げた。
「すいやせーん、俺今 野球にハマっててボールと間違えました」
白々しい物言い。
確かに助かったけど。
「お───」
沖田さんの目が口出し無用と強く語り、私は口を噤(つぐ)む。
沖田さんは佐々木さんが口を開く前に坂田さんのトイレットペーパーを台無しにしながら
気遣いはいらない、うちも粗相をしたから相殺にしようと言った。
坂田さんは俺まで巻き込むなと怒っている。
「そちらには愚弟(ゴミ)の処理を押しつけたようなものですから費用を上乗せしてもいいですよ
それと私の携帯―――」
「ゴミは分別してもらわないと困りまさァ
不燃ゴミかと思いきや燃えるゴミだったみたいですよ」
沖田さんは坂田さんのトイレットペーパーをくしゃくしゃに丸めて、携帯の話題になる前に話題変更した。
「いえ、私の携帯───」
「役たたずは役たたずだが灰になるまでコキ使ってやりまさァ」
丸めたトイレットペーパーをポイっと捨てる。