「鉄、美月ちゃん
バラガキってしってるか」
私はフルフルと首を振った。
「バラの茨みたいに触れるだけで刺が刺さるような手のつけられない暴れん棒の悪タレを俺の田舎じゃバラガキっていうんだ、
アイツのことさ
バラガキのトシ。
アイツは悪ガキどもが恐れる程の群を抜いたバラガキだった。
毎日 道場のゴロツキ相手に喧嘩三昧
自身が茨というより、自ら茨の中に歩んでいくような
あぶなっかしい奴だった」
相づちも入れず聞き入る。
「その様から、あのバラガキの中には鬼がいるって噂もあったっけなァ
だが噂は噂だ、
アイツも鉄と同じさ、
アイツにゃ茨の中しか居場所がなかっただけなんだ
トシも鉄と同じ妾の子だよ」
あまりに込み入った内容なので聞いてよかったのかと心中でたじろぐ。
「アイツの親父は地元じゃ ちょいと名のしれた豪農の遊び人でな、好き勝手やっておっ死んでから
ひょこり出てきた隠し子がトシだった」
たじろいでも話しの内容は頭に入っていく。
「親を亡くし、いき場をなくした子供だったトシを家に引き入れて世話してくれたのが年の離れた長男の為五郎さんって人でな、トシも為五郎さんにはよく懐き親父のように慕っていた」
ちょっとホッとする内容だった。
「だがそれが仇になった
トシが11のとき村全体を覆う大火が起こった
その騒ぎに乗じて豪農に押し入った暴漢からトシをかばって為五郎さんは目をやっちまったんだ
気がつくと血塗りの小刀を持ち、足元には暴漢が転がっている、
そして兄弟達の怯えた目と地面に転がった乾いた目玉がトシを見つめていたんだとよ」
込み入った話は続く。
そこから土方さんはバラガキと呼ばれるようになり
慕っていたお兄さんの元にもこなくなった。
土方さんが佐々木さんをかばったのは気持ちが分かったから、
家族に疎まれる悲しみ
お兄さんへの負い目
居場所がない、はみ出し者の気持ちが。
だけど土方さんは歩みを止めることはなかった
茨の中で傷つきボロボロになっても。
そこから先は佐々木さんへの言葉。
自分達もはみ出し者、
男の居場所の話し。
最後まで聞いて佐々木さんがどう思ったのかはしらない。
私は注意しようと思っていた気分がすっかり削がれていたのに、いつのまにか始まっていた乱闘が注意する活力を与えてくれた。
注意(お説教)が功を奏し、翌日からバスケをする人はいなくなった。
これで神棚にボールが当たることはないだろう
胸を撫で下ろした。
続く
→後書き