□冥姫 第四十五話 前編
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今も私にお茶の淹れ方を教えてほしいと言ってきたので、説明していたところだ。


「なるほど、お茶も手間をかければ全然違うんだね」

「お茶によって淹れる適温は変わってくるんで、そこは気をつけてください」


グラサンを外した佐々木さんは見れば見るほど別人だ
目が一昔前の少女マンガみたい。


「………」


その佐々木さんが若干思い詰めた顔していることに気付いた。


「佐々木さん?」

「あ、ゴメン」

「何かあったんですか」


少し躊躇(ためらい)を見せたものの口を開く。


「噂で知ってると思うけど、自分のせいで真選組に迷惑を……」


真剣に悩んでいるのが顔つきと口調で伝わってきた。


「くだらねェな
過ぎちまったこと悔やんでも、しかたねェだろ」


驚いた顔をして私を見る。


「………」

「私が過ぎたことを悔やんでいたとき、土方さんに言われた言葉です」

「……副長に…」


佐々木さんはまだ浮かない顔をしている。


…こういうときは器が大きくて局長の近藤さんに任せたほうがいいかな。

元々 会いに行くつもりだったし。


「私、これから近藤さんのところに行くんですけど一緒に行きませんか」


あの日以来 道場でバスケをやるようになっていた。

神棚がある場所でバスケをするなんて……神棚に当たったらどうするのか。

そのことをこのあと注意しに行く予定だった。


「今回のこと、ちゃんと近藤さんに報告しておきましょう」


そう言って、やや強引に佐々木さんを連れて道場に行く。


近藤さんは入り口付近にいたので話しかけた。


「おや、美月ちゃんもバスケしにきたの?」

「違います、佐々木さんがお話したいことがあるそうです」


私の注意はあとでもいいので先手を佐々木さんに譲った。


いつのまにかグラサンをかけた佐々木さんが近藤さんに今回のことを報告する。

ほとんど噂どおりの報告内容だった。


「そうかトシがまたやらかしたか」


豪快に笑う近藤さん。



「トシは元から仕事と喧嘩の区別が曖昧なやつだからな」

「あんた達は兄貴の恐ろしさを分かってない、
兄貴は家のためなら弟を斬ることも厭(いと)わない奴だ
ここだって俺と一緒に潰されるかもしれねェ」


一言に兄弟といっても内実は様々だな。

佐々木さんの話しは続く。


土方さんがなぜあんな行動をしたのか分からない、
アイツの言うようにさっさと俺を斬ればよかったんだ。

あんたらも俺が邪魔でいなくなってほしいんだろ
佐々木家に引き取られてからそんな目で見られてきて、もう慣れてしまった。


味方が一人もいない柵の強い家に突如放り込まれた子供、

その子供がどのように扱われるかなど容易に想像できる。

 
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