□冥姫 第四十五話 前編
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真選組の隊士になるには、定期的に行われる試験に合格しなければならない。

でも例外もある、たとえば縁故関係とか。






隊士さん達が剣の腕を研く道場で一人壁ぎわに座り込み、サングラスを掛けたラッパーみたいな人がガムを噛みながら携帯を弄っている。


近藤さんから紹介しとく奴がいると言われた土方さん、沖田さん、私は道場の入り口からラッパーの人を見た。


「佐々木鉄之助?」


土方さんが言った“佐々木”ってどこかで聞いたことある気がする。


「ああ、古くからエリートばかり輩出している名門幕臣、佐々木家のご子息だ。

だが彼だけは職にもつかず、悪さばかりして手がつけられないということで真選組(うち)で預かることになった」


名門という家は柵(しがらみ)やなんやらが強い。


「要するに親も持て余したあげく見捨てた落ちこぼれボンボンですか」

「ありがちなドラマみたいな話ですね」

「近藤さん、ここは更正施設じゃねーんだ
預けんならエリート警察の見廻組が妥当だろ
あそこの頭も佐々木某とか言ったな」


あ、そうだ、佐々木って見廻組の局長のことだった。


エリートの家の子息、ラッパー佐々木さんと同じ名字のエリート警察

たぶん血縁関係があるんだろう。


「あの様子じゃ粗方 たらい回しにされてうちに来たんでしょ
俺の一番隊で預かります
前線に放り込んで即殉職させてやりまさァ」

「殉職は不味くないですか」

「そうだぞ総悟、上に何言われるか」

「雑用でもやらしとけばいーんじゃねーの」

「それも角がたつし…」


近藤さんと目が合った。


「美月ちゃんの隊で――」

「部下はいらないと最初に言いました、
それに私の下でも角が立つと思いますよ」


一番年下の私の下に就きたい、などという人はいないだろう。

隊士さん達は気を使って私の下に就きたいとか、叱られたいとか冗談を言ってくれたけど。


「あっ、そういえば最近雑務が増えたから小姓がほしいって言ってたよなトシ」


佐々木さんの行き先が決定。

そのときの土方さんの表情、初めて見る表情だった。


書類整理は今もたまに手伝っている。

雑務が増えてるとは思ったけど、そこまで増えてるとは思わなかったので手伝ったことはない。

土方さんも忙しいから手伝ってほしいとは絶対言わない
だから知らなかった。


お茶よりも雑務の手伝いをしたほうがよかったかな。


……今になって思っても遅いけど。



佐々木さんが土方さんに挨拶にいくことになった。


色々心配で物陰から土方さんの部屋を見る。


中の様子までは伺えないので、とりあえず佐々木さんが出てくるのを待った。

 
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