□冥姫 第四十三話
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季節は巡り、今は冬真っ只中。


雪が降るほど寒くても、攘夷浪士が家にこもっておとなしくすることはない。






「スキー旅行?」

「商店街のクジで当たったネ」


見回りをしているとき、駄菓子屋さんで酢昆布を買っている神楽ちゃんと出会った
嬉しそうな顔をしていたので聞いたらスキー旅行に行くと言う。


「クジ運いいんだね」

「私と銀ちゃんと新八と姐御で行くアル

おみやげにスキーまんじゅう買ってくるから楽しみにしててネ」


スキーまんじゅうが実在するかは分からないけど、その気持ちが嬉しい。


「うん、ありがとう
旅行の話も聞かせてね」


「バイバーイ」と言う神楽ちゃんに手を振る。

元気に走って行く後ろ姿が見えなくなるまで見つめていた。


スキーか…。
スキーと聞いてある記憶が蘇った

そう、初めて行ったとき、遭難した記憶が。

あのときは今日より寒かった。



翌日

近藤さんの部屋で休憩している近藤さん、土方さん、沖田さんに淹れてきたお茶を配っているときだった。


「慰安旅行?」



コタツで暖をとっている近藤さんから伝えられ、
開け放しの障子のふちにもたれている土方さんが返した。


障子が開いているから庭が見えるけど外は雪が降っている。


「松平のとっつぁんが、こんなに寒くちゃ浪士どもも冬眠中だろうから、士気あげるために慰安旅行でスキーに行ってこいって」

「そこは温泉とかあるんですか?」


慰安旅行と聞くと、今の時期は温泉が思い浮かぶ。


「温泉については一言も言ってなかったな」

「どうも信用ならねェ、いつもならムチャしてでも働けとか言うオッさんだぞ。なにか裏があるんじゃねェか。

だいたい江戸の警備はどうすんだ」


まあ、そうだよね。


「考えすぎじゃねえですか、俺達ァ正月さえ休みなく働いてたんですよ
おかげで美月ちゃんと初詣に行く計画が台無しでさァ」


誘われはしたけど忙しくて行けなかった。


「行けなくて残念でしたね」

「まったくだ」


私が喋ったあと、土方さんの片眉が動いたように見えたけど気のせいかな
はっきり見たわけじゃないから真実は分からない。


「人間は性根まで腐ると親切も疑うようになるんですね
土方さんみたいに」

「骨の髄(ずい)まで腐ってる奴に言われたくねェ」

「警備が心配なら隊を近藤組と土方組に分けて片方が残ればいいんですよ
土方さんなら一人でも江戸を守り切ってくれます」


沖田さんの編成は分け幅が極端すぎる。

 
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