□冥姫 第四十話
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今の土方さんの台詞
もしかして…。


「願掛けってなんですか」

「こいつ張り込みが終わるまでアンパンと牛乳しか食わねーんだと
願いが叶うまで自分が好きなモノを断つ系のやつだな」


やっぱり、と思って絶句して噂が真実ではないことを知る。


じゃあ私がしたことって余計なお世話以外の何物でもないんだ。


「ちわー、ラーメン北さんでーす
出前お届けにきました」


さっき土方さんが頼んでた出前が届いた。


「副長、余計なことしないでください
俺 この願かけして任務失敗したことないんですよ

まあ…副長の命令なら───」


土方さんは自分でラーメンを食べている。


「え?なんか言った?」

「いえ…なんでもないです」


明らかに山崎さんは怒っている。

食べたい物を我慢してアンパン食べてる人の横で食べてるからね

怒る気持ちが解らないでもない。


土方さんが張り込み対象である女性のことを聞く。


酒屋を一人で切り盛りしている優しい娘
凶悪なテロリストの姉とは思えない
というのが山崎さんの意見だ。

弟が組織の資金を持ち逃げ、仲間からも追われる始末

もう姉の所以外に逃げ場はない。

やっかいなのは仲間にも追われているから人質にされないとも限らない

だから女を護れ。


土方さんはそう言うと私の方を向いた。


「山崎に差し入れ持ってきたんだろ」


できれば そのことに触れないでほしかった。


「差し入れ?」

「あー…と…お弁当を作ってきたんです、けど……余計なお世話でしたね
ごめんなさい」


決まり悪く眼をそらし気味に答えた。


「美月ちゃんの手作り!?」

「はい…一応
あ、気にしないでください自分で食べますから

すみませんでした」


言ってペコリと頭を下げ、逃げるように部屋を出た。


恥ずかしかった、
浮かれていたぶんだけ。

余計なお世話
ありがた迷惑

その言葉以外 当てはまらない自分の行動が恥ずかしかった。

しかも山崎さんに気を使わせてしまったに違いない。


「腹減ったな」


数分前にラーメンを食べた土方さんの声がした。


「おまえ弁当持ってんだろ、よこせよ」


ぶっきらぼうに言って手を差し出す。


世間ではこれをカツアゲと言う。


“弁当”の部分を“金”に変換すればカツアゲだと分かりやすい。


たぶん気を使ってくれてるんだろうけどね。


「大丈夫です、お弁当は自分で食べます」


反省の意味も込めて。


「いいから、よこせ」


私の手から手さげをひったくる。


「これは俺が食うからな」


背を向けて歩く土方さん、
私のお昼ご飯が連れ去られた。


しょうがない、定食屋さんに行こう。

 
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