□冥姫 第四十話
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「嬉しそうだな」


苦笑した直後に言われたから、知らず顔にだしていたのかと一瞬慌てたけど
どうやら違うらしい。

隣を歩くだけの土方さんがどうして分かったのかは解らない
でも平静を装う私の心を言い当てた

…もしかして無意識のうちにソワソワした空気をだしてたのかな?


「わかります?」


本当はどうして分かったのか聞きたかったが当たり障りない返答で返す。


「山崎に会うのが…そんなに嬉しいか?」

「そうですね、最近会ってないですから」

「そうか、ところでその手に持ってるのはなんだ」


お弁当を入れた手さげを見ている。


「差し入れです」

「食い物ならあいつは…」


話しの途中で口が止まった。

土方さんの視線の先に私も視線を向ける。


山崎さんが歩いていた。

ふいに女性にぶつかりコンビニの袋を落とす山崎さん。

女性にアンパンを拾ってもらう。

あと見間違いじゃないなら落としたコンビニの袋から大量のアンパンが見えた

噂は真実だった。


「あの野郎」


土方さんが渋い顔をする。


「どうかしたんですか」

「あの女が山崎の張り込み対象だ」


なるほど。


ほどなくして山崎さんの潜入先のアパートに着いた。

ノックどころか声もかけず土方さんは室内に入っていく。

いいのかな?と思いながらも土方さんに続いた。


室内ではイスに座った山崎さんが窓の外をずっと見つめ
周りにはアンパンのビニール袋と牛乳の空パックが散乱していた。


「山崎、てめーそれでも監察か」

「見てたんですか
監察を監察するなんて暇なんですね
そんなに暇なら副長がここに座ればいいんだ」


こちらを一瞥(いちべつ)もせず、刺のある言葉を投げ掛ける。


「相変わらずアンパンばっか食ってんだろ、荒れてんな」


牛乳 飲んでるのにカルシウムが足りてないのかな。


「…山崎さん」


遠慮がちに声をかけた。


「美月ちゃんの幻聴が聞こえる…
副長は毎日 美月ちゃんに会えていいですね」


まさか幻聴扱いされるとは…。


「幻聴じゃないですよ」


山崎さんが首だけで後ろを振り返り私を見る。


「美月ちゃん!わざわざ俺に会いにきてくれたの?!」

「はい」


微笑んだ。


「ったく、態度(たいど)コロコロ変えやがって

いいか?願(がん)掛けすんのは勝手だが張り込みは体力勝負だ
食うもん食えって言っただろうが」


願掛け?

 
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