□冥姫 第三十九話
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次の日

「宮中 近藤さん見なかったか?」

「昨日の見回り前に見かけたきりですね
今日は見てないです」


またどこか…お妙さんのところに行ってるのかな。


「見かけたら一度 屯所に戻るよう言ってくれ」

「はい」


去っていく土方さんの背中を見つめる、

見ているうちに
背中に飛びついたらどうなるだろうかと疑問が浮かんだ。

前につんのめるか倒れる、の二者択一(にしゃたくいつ)だろうけど。


そのあとは『何してんだァァ!!』って怒られるだろうな。


唐突に頭の中で小さい頃の私が顔をだす、

怒られると分かっていながらやってみたいと思った。

『楽しそう!』と乗り気で悪戯をするときのようなワクワクした高揚感。


でも、やらない
だって危ないじゃない

つんのめって足を捻挫するかもしれないし
倒れて頭を強打するかもしれない。


小さい頃の私が顔をだしても私はやらない。

それに顔をだした小さい頃は当の昔に過ぎ去ってしまったよ、

あのチマチマした私はもういないのだ。


見ながら考えているうちに強い視線を送っていたのだろうか

小さくなっていく土方さんの足がピタリと止まった。

ゆっくりと肩ごしに振り向き
視線が交わる。


密(ひそ)やかに驚いた。

悪戯の直前で相手にバレてしまったような心境だ。


「ぁ、見回り行ってきます」


言い逃げた。


外に出て胸を撫で下ろす。

びっくりした〜
まさか目が合うとはね。


悪戯しようとしたわけではない
してみたいとは思ったけどしたわけではない。


やってみよう、は行動に繋がり
やってみたい、は思想に繋がる
似て非なるモノだ。

言ってみれば
方法をなんとなく思いついただけにすぎない。

なのになんで実際にやろうとしたときのような心境になったりするんだろう?


…それ以前に、なんで背中に飛びついたらとか
あんな疑問が浮かんだんだろう?


あと悪戯を思いつくなんていつぶりだっけ?


様々な疑問が頭の中で交差し、ごちゃごちゃしてきた。

疑問はいったん置いとこう。


そういえば土方さんを見ていて目が合うのは久しぶりだ

山崎さんに方法を教えてもらってからは目が合うことはなくなったから。


ピーク時と比べたら土方さんを盗み見る回数はかなり減った、というのもあるかもしれないけど。


考え込むと注意力が散漫になる

もう考えるのは止めにして見回りに専念しよう。



大通りを歩いていたら新八君らしき後ろ姿を見つけた。


「新八君」


私の呼び掛けに反応して振り返ったのは予想どおり新八君だった。


「美月さん、こんにちは」

「こんにちは、ちょっと聞きたいことがあるんだけど近藤さん見なかった?」


藪(やぶ)から棒だけど聞いた。

 
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