□冥姫 第三十六話
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「山崎 お前は奴におちょくられたんだよ」

「そうでしょうか?
私はそうは思えないです
少なくともおちょくりではないように感じました」

「どういうことだ」

「人が人をおちょくった感じがしないんです
人をバカにしているような見下している感じがしませんでした」


感覚的なことを表現するのって難しい。


「まさかお前まで丸め込まれたんじゃねェーだろうな」

「それは無いです」

「予想はしていたが一筋縄ではいかんか、次は俺が行こう
攻めはもう充分なはず、俺はアメでいく、はぐれ刑事 改め、
ゴリラ刑事 人情派」

「ゴリラ刑事ってゴリラになってんだけど
人からはぐれてんだけど」

「課長 俺に何かあったら娘達と妹のこと…頼む」


土方課長?


「どこに課長と娘達と妹がいるんだ」

「妹なら そこに」


近藤さんが指を指(さ)したので後ろを確認したところ誰もいなかった

つまり私が妹か。


「お兄ちゃんに何かあっても泣くんじゃないぞ
娘達には愛していると言ってくれ」

「…はい………?」


正解のリアクションが分からない。


近藤さんは取り調べ室に入るとカツ丼を取り出した。


「ムショのメシには飽きただろう
これはゴリさん特製カツ丼だ、食べなさい」


………。


田中古兵衛は拘束具を付けられてるから仕方ないかもしれないけど

後頭部を押さえてカツ丼を犬食いさせるのは
ちょっとどうだろう。


「人情派なのはカツ丼だけで、食わせかたがむしろ非人情派なんですけど」


淡々とツッコミをいれる土方さん。


人情派の近藤さんは息子の非行から更正までをマッスルと絡めた、創作 身の上話を語った。


私なら情報を吐く気が失せる。


「…吐きます 全て」


嘘ぉ!?


田中古兵衛は
おぼろしゃァァァと勢いよく嘔吐(おうと)し
正面にいた近藤さんにかかった。


「すいません このカツ丼 腐ってませんか」

「ま、まだ腐ってねーよ
これはまだ三日前のなんだ
あとから食おうと取っていたんだ」

「三日!?」


思わず声が出た。


「いや腐ってるだろ、カツ丼もあんたの頭も」

「調理した卵は ただでさえ傷みやすいのに…
冷蔵庫どころか常温放置してたんでしょうね」


傷んだ卵を食べると大変なことになるらしい。

 
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