□冥姫 第三十二話
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『仕事 溜まってんぞ』


ええ、そうでしょうね。

仕事だけしに行くわけにもいかないし………
だから土方さん急いでください。


悪口に忍ばせた私からのメッセージに気づかないで気づいて。


甲斐性なしとは本来 稼ぎの少ない男性を野次る言葉だ。

意味だけ枝分かれして、別の意味も多数ある言葉でもある。


そもそも事の発端は家出した日から三日前に遡る。


家出の発端 美月の回想。


松平様の粋な はからいで屯所に幻の銘酒
“どぶろく三十六”が送られてきた。

幻のにごり酒らしいが未成年の私には関係ないこと

真選組の皆さんのテンションの上がりようは凄かったけどね。


夜には‘少しだけ飲もう’と書いて‘好きなだけ飲んで騒げ’と読む宴会が開かれて私も強制参加させられた。


美味い 美味いとハイペースでお酒を飲む皆さん、

あっという間にどぶろくを飲み尽くすと、準備のいいことに新しいお酒がでてきた。


「梅の花の季節なんで梅酒を探したんすけど売り切れてまして。
代わりにこっちを買っときました」


ん?あれホワイトリカー(アルコール度数35度の焼酎)って書いてあるよ!

母上が梅酒を作るときに使っていたので名前は知っている

ついでに強いお酒であることも知っている。


薄めもせずに飲み始めちゃったよ

当然 飲み過ぎで酔い潰れる人多数。

いつもは飲み過ぎない土方さんもどぶろく三十六で良い気分になったのか
ただ今、飲み比べの真っ最中。


一人素面(しらふ)の私は酔っ払いに絡まれないように部屋の隅っこで小さくなりながらその様子を眺めていた。


いい加減に部屋に戻りたいけど、今へたに動いたら絶対 絡まれる

酔い潰れるのを待つしかないか…。



どれだけのお酒が消費されたのか
ほとんどの人が酔い潰れ、床に転がっている。

酒気がたちこめるここから早く退散したいけど、酔い潰れた人たちが風邪を引くといけないので毛布を掛けていった。


毛布も掛け終わり部屋に戻っていたら肩がずしっと重くなった。


「宮中〜酌しろ」


酔い潰れた皆さんの中にいないと思ったらどこにいたのか
お花見で坂田さんと飲み比べしたときのような泥酔具合の土方さんが絡んできた。


「飲み過ぎですよ
部屋に戻りましょう」

「上等だ、俺はまだ飲めるぞ」

「分かりましたから部屋に戻りますよ」


千鳥足の土方さんに肩を貸すようにして部屋に連れていく。


部屋に着き、布団を敷いていたらまた土方さんが絡んできた。


「美月〜好きだ〜」

「はいはい」


酔っ払いの戯言は流すにかぎる。


「マジで好きだ…」


戯言を流しながら淡々と布団を敷いていた私の視界が回った。


布団の上に倒れこんだので痛くはない、
それよりも重大なのは土方さんの部屋の天井と、目が座った土方さんの顔が見えることだ。


顔が近づいてきたのでとっさに手で遮る
土方さんは私の掌にキスした

セーフ!

私の手から顔を放したので諦めたかと思ったら、首の横に顔が埋まり、首に唇と思う感触がした。

 
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