□冥姫 最終話
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私は書いておいた辞表をひっ掴み、局長室に走り込んだ。

「近藤さん!」

「美月ちゃん!?」


今からストーキングに行こうとしていた近藤さんは、私の剣幕に驚いたようだった。

「私、真選組を辞めます!」

辞表を近藤さんの眼前に突きつける。


「お、落ち着いて」

「土方さんのセクハラに、もう我慢なりません」

「セクハラってなにされたの」

「…好きだって言われました」

さっきまでの勢位が嘘のようにボソボソ呟いた。


「好きだ、がセクハラになるの?」

「好きじゃないのに言われました」

これが嘘じゃないならセクハラなんて言わない。


「とにかく受け取ってください!」

再度辞表を突きつけた。


「俺は嘘じゃないと思うな、なんで嘘だと思うの?」

「………」

だって…土方さんはお妙さんのことが…。


「トシさ、ヘビースモーカーだろ」

「?はい」

「なのに美月ちゃんの前だと吸わないの気づいてた?」

「…え?」


最初の頃は普通に吸っていた
あのときも吸っていた、あのときは吸っていたっけ?

思い返す

………あれ?いや、あのときは吸ってなかった、
え?あのときも…あのときも…あのときも、あれえ?
えっ?ええ!?

頭をフル回転して思い出してみる

灰皿に盛り上がる吸い殻を見たことがある
タバコをくわえてるのを見たことがある

あるけど、あれ?

言われてみれば…。


「いつ頃からか美月ちゃんが来たら、吸ってたタバコを消すのを頻繁に見るようになって聞いたんだよ、
「美月ちゃんの前だと吸わないな」って、そしたら、あいつはタバコが苦手だからって言ってたよ」


青天の霹靂(へきれき)

言った、確かに言った
言ったけどいつから?

いつから土方さんは私の前でタバコを吸わなくなった!?

なぜか私は焦った
なぜ焦っているの分からないまま、焦りながら考えていると

「ここに居やがったか」

少し怒気を発している土方さんがいた。


「じゃあ俺は愛のパトロールに行ってくるから」

「あ、待っ───」


私を見捨て、近藤さんは良い笑顔で出ていった。

近藤さんが出ていった方をやや呆然と見つめる。


「………」

「………」

お互い無言。

入り口付近に立っていた土方さんがいつもの足取りで近づいてきて、私の半歩先でとまる。


「…どういうことだ」

なにが?

「なんで俺が眼鏡の姉貴のことを好きって設定になってんだ」

「設定も何も事実じゃないですか」

「はあ?」

「……告白してるところ見ました」

「はあ?あるわけないだろ」

「いい加減、嘘はやめてください」

「お前こそ何と見間違った」


認めたくないのだろうか
否定ばかりを繰り返す。


「いつの話だ」

「土方さんと坂田さんが入れ替わったときです」


土方さんが暫し思案顔になったあと、合点がいったという顔になった。


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