□冥姫 第五十六話
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「気苦労も不満もありません」

「じゃあなんで」

「一身上の都合です」


実際あまり余裕がないと誰かに迷惑をかけてしまうかもしれない。


「……それは美月ちゃんが元気がなかったことと関係してる?」


………………え?

私の目は今 丸くなっていると思う。


「えっと、あの……」

「お妙さんに美月ちゃんが元気ないみたいだから気にかけてほしいって言われてな」

「………」

「注意深く見てたらちょっとした瞬間に、あれ?元気ない?と感じることがあって気にしていたんだ」


お妙さんと会った翌日から感じていた視線は近藤さんだったのか。

そしてお妙さんはやっぱり優しい。


「それにトシと総悟と、余所余所(よそよそ)しい感じがするんだけど喧嘩でもした?」

「喧嘩はしてないです」

「トシが美月ちゃんのこと愚痴ってたよ、避けられてるって」

「そうですか……」

「美月ちゃんが元気ないのはトシが関係してる?」

「え…」


さすが驚く。


「トシの話をしたとき元気ないように見えたから」


何も言えなかった。

近藤さんに指摘されるとは…、土方さんに関係することに分かりやすくなっているみたい。


「トシは何したの」

「……それは…」


いい淀(よど)む。


「言いたくないなら無理にとは言わないが、案外言っちまったほうが楽になると思うぞ」


豪快な近藤さんの笑顔
どんなことでも大丈夫と言っているようだった。


「…………分かりました、理由をお話しします」


黙っていようと思ったけど私は口を開いた。





「トシ、お前美月ちゃんにセクハラしたらしいな」

「はあ?」


深夜に話があると言われてきてみれば、なんの冗談だ?


「美月ちゃんに質の悪い冗談言って、手を握ったらしいな」


質の悪い冗談?

………あーあれか、俺が好きだって言ったらどうするって聞いたやつか、手は握ったな。


「いくら美月ちゃんが好きでもセクハラはいかんぞセクハラは」

「セクハラじゃねェーよ
距離を少し縮めて口説こうとしただけだ」

「まあそんなことだろうとは思ったがな」

「確かに冗談とは言ったが、あそこまでしたら大体気がつくだろう」


最近気がついたんだが、宮中は好意と厚意の区別ができてねェんじゃねえだろうか

…そういや前に俺に優しいとか言ってきたことがあったな

俺の好意を厚意と思ってたんだろう。

それと、あいつは周りにいる男すべて
男としてみてないんだろう。

男として見てない相手が厚意を向けてくる

優しい人の出来上がりだ。

 
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