□冥姫 第五十五話
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だけど………


「よお」


居ないと思って持ってきた書類を持ったままフリーズした。

なんでいるの!?

今の時間は見回り中のはずなのに、なぜか腕組みしながら壁に寄りかかって立っていて、顔だけをこちらに向けている。

まさに遅かったなと言わんばかりのポーズ。


「急遽、書類を書かなきゃいけなくなってな」

「な、なんで立っているんですか」

「ついさっき終わった」

「そ、うですか…これ書類です」


手に持っていた数枚の書類を手渡す。

私は手渡した、確かに手渡したはず

なのに私と土方さんの足元には散らばった書類

拾おうとしゃがむと、土方さんもしゃがむ。


書類を拾う、数枚しかないので時間はかからない。


最後の一枚を拾う私の手に土方さんの手が重ねられた、というか握ってきた。


「なんですか?」


普通に意図が分からず疑問を口にした。


ふいに私の手を握る力が強くなる。


「なあ…俺がもしここで好きだって言ったらどうする?」


まさか、お妙さんが好きだいうことを暴露しようとしている?

誰かに聞いてほしいのかな…。


「お前ならどう思う」

「私なら……」


目が斜め下を見る。


私の意見を参考にしたいのかな

お妙さんに今度は土方さんの姿で……告白する気なのかな…。


「私なら……困ります」


相変わらず相談の甲斐(かい)がないと思う。

自分で苦笑する。


土方さんは呆れているだろうと思いつつ顔をみたら、少し困った顔をしていた


「だろうな」


無意識なのか意図的なのか、ため息混じりだった。


「すみません、参考になりませんね」

「じゃあお前の好きなやつから告白されたらどう思う」


一瞬 目が泳ぐ
完全に油断していた。


以前、これ以上この話をしないでほしい意を込めて愛想笑いで牽制して線を示した
土方さんに伝わったはず

なのに線を越えて踏み込んできて、私がたじろぐ。

土方さんは真剣な顔で、射ぬくような目をしている

逃がさないという思いの現れか、土方さんの手が熱い。


「わ、たしなら……」

「………」

「私……なら………」

「………」

「……………困ります」


言って微笑んだ。


お妙さんのことが好きな人に好きだ、なんて言われても嬉しくない

線引きしたのに、ずかずか踏み込んで本当に困った人だ。


「……そうか」


眉を下げ、困ったように笑う。
お妙さんを想っているのだろう
見ていたくなくて俯いた。

不意に土方さんが私の頭を撫でだした、
慰めるように優しい手つきで私の頭を撫でている。

胸が苦しくて一瞬で目に涙が溜まった。


「手を放してください」


手が放れると同時に背を向けて立ち上がり、無言で部屋を出た。

 
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