□冥姫 第五十五話
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「気のせいじゃないですか」

「俺の目を見て言えよ」

「……今日は瞳孔が開いた人の目を見ないように気を付けましょう、とブラック星座占いのお姉さんが言っていた(と思う)ので目は…ちょっと……」

「へェ」


土方さんが身を屈(かが)めたかと思ったら、私の顔を覗きこんで強制的に目が合った。


「じゃあ今日は鏡 見れねェな」


不意打ちにみたいなものなので、顔が赤くなってしまった。


「あ、あの…あまり近づかないでください」


顔をそらしながら少し距離をとる。


何かを考えるそぶりをしたあと、土方さんが近づいて距離が縮まった。


「あの……」

「嬉しいぜ」


何が?私が戸惑っているのが嬉しいのか?


「何が───」

「その警戒心、俺に向けられた警戒心

嬉しいぜ、初めて俺を男として見てくれたな」


私の話を遮り、確信を突いてきた。

頭が真っ白になって、否定もできず絶句する

というか、知らず警戒していたらしい


「…なんてな」

え?

まさか………からかわれた!?


怒っていいと思う、ちょっと質の悪い冗談だ

なのに私はホッとしていた。


「冗談が過ぎますよ」

「………」


土方さんは何も答えなかった

ただ真面目な顔で私をジッと見ている。


どうしよう…ドキドキしてきた。


「…ちょっと確認させてくれ」


なんの?と思った次の瞬間、私の両頬に手を添えて上を向かされた

土方さんと私の目が合う

さすがにドギマギして何度も目が泳ぎかけた。


「……お前、案外分かりやすい所があるんだな」


土方さんの言葉と行動にいっぱいいっぱいなせいで、自分を取り繕うことができない

いつもは凪いでいた心も、恋を自覚してからは常に何重にも波紋が広がっている、ときには さざ波がたったり、荒れ狂う。


今は、うねっている。


以前とは違い、余裕のない私はあっさりキャパオーバーしていた

だから土方さんを突き飛ばして逃げた。

そして思った

セクハラだ!

絶対セクハラ!

しかもセクハラと分かった上でのセクハラ!

もしくはセクハラに見せかけた嫌がらせ!!

私 土方さんに何かした?

確かに土方さんを避けていたけどそれでセクハラ?

今後もセクハラするなら……お妙さんに…叱ってもらう………?

あー嫌だ!!嫉妬も落ち込みもしたくない!



早く恋心を消すため、私はまたタイミングをずらすことにした。

 
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