長い夢

□冥姫 第二十五話
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ここは戦ってでも逃げたほうがよさそうだ、

第六感が私にそう告げる。


刀を鞘ごと抜いて構えた。


「稽古をつけてほしいのかしら」


母上の殺気は猛者でも恐怖で動けなくなる
それが私にだけ注がれ、冷や汗が流れた。

勝てる気がしないので刀を下ろす。

疲れた、数秒で疲れた。


「美月ちゃん落ち着いて」


近藤さんがオロオロしている。


「落ち着きましたからご心配なく」


諦めて母上の横に座った。


「美月 久しぶりに会ったんだから母上に甘えてもいいのよ」


いけしゃあしゃあと!


「遠慮する」


年上には常識ある言葉遣いをしろと言われてきたが
家族関では砕けた言葉遣いをしている。


母上は副長にも挨拶したいと言うので土方さんが呼ばれた。


「初めまして美月の母です
いつも娘がお世話になっております
ふつつかな跳ねっ返り娘ですのでご迷惑ばかりおかけしていることでしょう」

「迷惑なんてかけられた覚えはないです」


母上の眼が土方さんを視ている

他の人には解りにくいが見定めているのだ。


「しかし美月ちゃんと似てますなあ お若いし
姉妹に間違えられることも多いでしょう」

「あら、お上手ですね」


見た目 二十代の母上と姉妹に間違われることはよくある。


「若く見えて36うっ!」


脇腹に拳が入った、痛くはないが脇腹に突っ込まれた。


「36!?」

「見えねェ〜」


後ろから驚きの声が聞こえたかと思ったら


バターン

後ろの襖が倒れて沢山の隊士さんが折り重なるように倒れていた。


よく見ると沖田さんや他の隊長さんまでいる、
覗いてたんだ。


母上は動じずに隊士さんたちを見ている。


「てめーら何やってやがる!」


皆さん逃げて行った。


「美月…母上ガッカリしたわ
こんなに沢山男性がいるんだから、一人や二人は美月を落としているんじゃないかと期待していたのに」

「何それ」


どんな期待だ!


「不貞腐れなくてもいいじゃない、せっかく私が可愛く産んであげたんだから
笑って笑って」

「いや…さすがに笑えないから」

「あのね美月 母上のお友達で最近赤ちゃんを産んだ人がいて、赤ちゃんを見に行ったんだけど可愛くてね」


嫌な予感しかしない。


「赤ちゃんは可愛いでしょうよ」

「また赤ちゃんが欲しくなっちゃった、

だから美月 産んで」


はあ?
なんで私?


「母上は頑張れば まだ赤ちゃん産めるでしょ
欲しいなら自分で産みなよ

心配しなくても年が17、8違う弟でも私は大切に思えるから」

「どうせなら女の子がいいし、孫は可愛いっていうのも体験してみたいわ
だから産んで」


母上の勝手気儘(かってきまま)な我儘。


「いつかは産むかもしれないけど今は…」

「いつまで待つの」


一言に二つの意味が含まれていた。

普通はどれくらい待てば産むの?という意味に捉えるだろう。

 
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