長い夢

□冥姫 第二十五話
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「お前の笑顔 久しぶりに見たな」

「そんなに笑ってなかったですか?」


いつも通りのつもりだけど。


「俺の前ではな、俺が笑えない空気ばっか出してたから」


言われて気がついた

本当に深刻に悩んでたから軽々しく笑顔なんて見せられなかったことに。


「私は土方さんが笑うの初めて見ました」


自然な笑顔は初めてみた
なんか得した気分。


「そうか」


いつもの口元だけが弧を描く笑いになった。


「私はさっきの笑顔のほうが好きです」


微笑んだ。


土方さんは手で目だけを覆い、うなだれた。


「まいった」


何に?


「どうしたんですか」

「いや、なんでもない」


なんとなく悩みが吹っ切れたように見えた。





そうだよな、俺は宮中が好きだ。


弟が言っていたことは、伊東のときに丸々当てはまっていて、宮中が落ち込んでいた理由と共にそれが真実だと俺に知らしめた。


伝えられない想いに苦しめと言われたが、冷静になって考えてみれば
言われる前からまだ伝える気はなかった
時期尚早(じきしょうそう)なのは解ってたからな。


それに裏を返せば宮中が俺を好きになってから伝えたら裏切られた気分にはならないってことだろ?

つまりどういうことかと言うと今まで通りでいいってことだ。


そう思ったら吹っ切れた。





「宮中 気をつかわせて悪かったな」


悩みが無くなったようでよかった。


「土方さんは悪くないです
謝らないでください」

「お前の弟 大したタマだな
まだ成長途中であれとは末恐ろしいぜ」

「そうでもないですよ
母上にかかれば涼夜など赤子も同然です」


また悪寒が走った。


「一旦屯所に戻るぞ
戻らねェってんなら抱き上げて連れてくからな」


お姫さま抱っこで!?


脅し文句に負けて、私たちは屯所に戻った。


悪寒がひどくなる。


「美月ちゃんお帰り、…寒そうだね」

「山崎 布団引け、宮中を寝かせるから」

「これは布団に入っても治らないので布団はいいです」

「美月ちゃんにお客さんがきてるんだけど
どうする?」


私にお客さん?誰だろう。


「その人は客間ですか」

「うん」

「お待たせするわけにはいかないのですぐ行きます」


客間に向かい襖を開けた。


「お待たせして申し訳ありませ…」


中にいた人を見て仰天して動転した。


「おぉ帰ってきたか」


近藤さんの声が耳を素通りする。


「は、は、は、
はははは母上!!!」


なっ!なっ!えっ!
なんで母上がここに!?

悪寒の正体はこれだったのか!


「久しぶりね美月」


逃げよう!


走りだした私の眼前5cmを針が飛んでいき中庭の木に刺さった。


「逃げることないじゃない」


その笑顔が恐いです。


突然だが うちの家族は全員 退魔師を経験している

母上も元退魔師なのだが…腕がちっとも衰えてない!

 
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