長い夢

□冥姫 第二十一話
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「宮中」

「土方さん何かご用……
さきほどは失礼しました」


何も言わずいきなり走り出して部屋に戻ったことを思い出した。

あんなことされて気にするな、というほうが無理がある。


「お前…」

「どうかしましたか」


言いたいことなら分かるけどとぼけた。

さっきまで落ち込んだ顔をしていたのが今はあっけらかんとした顔をしているのだから驚くのも無理はない。


「…ハァ」


ため息、何が原因?


「相談があるならいつでも聴いてやるから」


少なくともクマのある人に相談しようとは思わないけどお礼を言って微笑んだ。

土方さんは ああとだけ言って部屋に戻っていった。

疲れてるんだなぁとしみじみ思う。

私にできることと言えば。



台所でお茶を淹れる用意をしていたら沖田さんがふらりとやってきた。


「また土方さんにお茶淹れてんのかィ」

「はい 目に見えて疲れてるので」

「雑巾絞った水で茶ァ淹れてやんな」


どっかのOL?


「とてもじゃないけど出来ませんよ」

「部屋にいるから後で俺にも茶ァ淹れて持ってきてくんな」


背を向け手をヒラヒラ振りながら沖田さんは出ていった。

?チャチャを入れにきたのだろうか

でも沖田さんが私にお茶を頼むのは珍しい。


まあいい、まずは土方さんに持っていこう。


開け放しの障子
部屋の前で声を掛けようとしたところで 土方さんがドンと拳で机を叩いた。

ちょっとびっくりしたけどお茶はこぼさなかった。


「!宮中…!?」


マズイものを見られたというような顔をする。


「お茶を淹れてきたんですけど…」

「わ、ワリィな、そこ置いといてくれ」

「はい 後で書類お手伝いしますね」


ここのところ毎日のように手伝いをしている。

伊東さんの事件で人手が足りないうえ、引継ぎやらなんやらで増える一方の書類

土方さんがイライラするのも仕方ない。



また台所でお茶を淹れて沖田さんに持って行った。

部屋に入っても沖田さんは私に視線を向けようとしない。


「沖田さんお茶を持ってきました」

「………」

「沖田さん?」


近くに座って、お茶をお盆ごと差し出したところで沖田さんに腕を捕まれグイっと引っ張られた。


体勢を崩して距離が縮まる。
真剣な顔をした沖田さんの顔が真正面にあって目と目が合う。


「殺してやりたい
美月ちゃんの笑顔を曇らせる奴を」


驚いた、自分に。


そんなしょっちゅう落ち込んだ顔をしていたのか、

どうりで皆さんが腫物を触るような対応をするはずだ。


そこまで腑抜けていたとは…叱咤(しった)どころか自分で自分を殴りたい。


「殺してやりてェが伊東はすでにいない、
英霊になった奴らも、もういない

代わりに気のきいた慰めの言葉でもと考えたがちっとも思い浮かばねェ

美月ちゃんは何て言ってほしい?

大サービスだ何でも言ってやるぜ」


沖田さんなりに励ましてくれている。


取り敢えず言っとくか的な薄っぺらい慰めよりは真剣さが伝わってきて嬉しくなった。

 
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