長い夢

□冥姫 第十九話
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「みんな私を置いて行ってしまったわ、振り向きもしないで」


もしかしてが確信に変わった、

土方さんはミツバさんが好きなんだ、きっと今も。

一つも浮ついた話がないのはそのためなんだ。


「私、土方さんを連れてきます」

「待ちなよ美月ちゃん」


坂田さんが私の手首を掴んで止める。


「放してください」

「連れてきてどうするの」

「だって…だって…」


想い合う二人。

土方さんがミツバさんを想って離れたのは分かるよ

たまにいるんだ
そういう人が。


「銀さん少し席を外してくれませんか」


ミツバさん?


「はいはい」


坂田さんは病室を出ていった。


「美月さんも恋をしているのね」

「…ミツバさんって鋭いですね
他の誰も気がつかなかったのに」

「分かるわ 同じ女ですもの」


「恋って複雑ですよね
言葉にしたらたったの一言なのに」

「…あなたも辛い恋をしてるのね」


「待ってるんです
待つと決めたんです…
待つことしかできないんです」


ミツバさんが私の頭を撫でた。


「私もずっと待ってたの
いつか十四郎さんが帰ってきてくれるんじゃないかって」

「本当は…追い掛けられるものなら追い掛けたいんですけどね」


「私あなたが羨ましい
だって女の子だけど皆と一緒にいられるから、それだけの強さがあるわ」

「そうでしょうか」

「ええ」


ミツバさんが咳き込みだした。


「大丈夫ですか!?
ごめんなさい調子にのって長話ししてしまって」

「いいの。あなたともっとお話ししたいの」


血を吐いた!



ミツバさんはすぐに集中治療室に運ばれて、沖田さんと近藤さんが飛んできた。


沖田さんは休まずガラスの外からミツバさんを見ている。


休んできたから休めと言う近藤さん、目の下にはくまが。


「トシと派手にやりあって、珍しく負けたそーじゃねーか」

「野郎の話はやめてくだせェ
どいつもこいつもトシトシって」


…沖田さんが土方さんを嫌う理由が見えてきた。


誰だって大好きな人を盗られたら嫉妬する
人間ならだれしもが持つ感情だ。


「局長ォォォ!大変です
副長がァァァ!!」


山崎さんだ。


「土方さんが一人で転海屋に乗り込んだんですか!?」


なぜ黙っていたと近藤さんが問い詰める、


血縁者に攘夷浪士と関係があると知れたら沖田さんが真選組で立場を失うから
他言するなと言われていたと答えた。


現場に行こうとする沖田さんを近藤さんが止める。


そして沖田さんが本心を語る
一緒にいて溝を感じていたと。


それを聞いて近藤さんが沖田さんを殴った、

近藤さんから三人の関係性が語られる
誰かが曲がったら殴って真っすぐに戻す
俺たちはそういう悪友だと。


…ミツバさんが言ってた通りだ、
女の子の入り込む余地なんてない

一緒にいることはできても中に入ることはできない。


私はただ黙って聞いていた
聞くことしかできなかったから。



沖田さんを残し近藤さんと私は病院を後にする。


近藤さんが仲間を引きつれて現場に到着すると土方さんが囲まれていた。


「いけェェェ!」

「し、真選組だぁ!」


逃がさないよ、誰一人。


首謀者の蔵場は沖田さんが片をつけた。




全部終わって病院に向かう。

集中治療室に走る皆さんからそっと離れて、私は病院の中庭にある木に登った。


ミツバさんが旅立つのは分かっていたことだけど…。

 
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