長い夢

□お前への懐い 俺の思い 前編
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その少女は驚くほどの強さで真選組初の女隊士になった。


「初めまして宮中美月です

まだ右も左も分からない小娘ですが、宜しくご指導のほどをお願い申し上げます」


畳に指をつき頭を下げながら少女は言った。


あんな少女に敵が斬れるのかという意見もあったが、一雫の返り血も浴びず敵を斬り伏せ


「遅いですよ。敵はこれで全員だと思います」


何でもないことのように少女は言った。



血の華舞う舞台が、あいつの初舞台だった。




いつからか
知ってるなら教えてくれ。





     冥姫過去編



.お前への懐(おも)い 俺の思い

      前編





真選組初の女隊士が誕生してから二ヶ月が過ぎた。


宮中は頑張っている。


隊の奴らも最初こそ戸惑っていたが、あいつの人当たりのよさもあってか、今ではすっかり打ち解けている

というかほとんどアイドルと化してね?


隊の奴ら曰く
可愛い妹のような存在、だそうだ

中には本気で惚れてる奴もいるかもな。



女と呼ぶにはまだ早い少女は性別で攘夷の奴らに嘲(あざけ)られることが多い

が、当の本人は


「どんなに武芸に優れた者でも油断してくれるから楽ですよ」


あっけらかんと言ってのける。


そりゃそうだが、普通あそこまで言われたら多少は嫌悪を感じるだろ

揺るがない信念みたいなもんを持ってんのか、本当に慣れてんのか。

それと宮中は肝が据わっているというか物怖じしない、

わざと捕まったりして、攘夷の組織を三つほど一人で潰しやがった

規模は大した物ではなかったが、それでも…。



「美月ちゃん」


総悟が宮中を呼ぶ声で回顧(かいこ)から引き戻された。

またちょっかいを出しにきたな。

総悟は宮中を気に入ってるらしい、気に入るのは別に構わない

だがドS王子の好意なのだ

よく微笑んでいる宮中の泣いたところや、悲しそうな顔を見てみたいと言っていた。


「なんですか沖田さん」

「俺は美月ちゃんのことが大嫌いでさァ」

「はあ……そうですか」

「真選組に女がいるなんていい笑い者だ、ねえ土方さん」

「俺に振るな」

「いつか笑われなくなるように頑張ります」

「さっさと真選組から出てってくだせェ」

「そう言われても困りますね」


怒りも悲しみもない物言いで淡々と答える宮中

暖簾に腕押し、とはよく言ったもんだ。





別の日

「美月ちゃん、ちょっとお使いに行ってきてくれるかい」

「いいですよ」

「五秒以内にジュース買ってきてくだせェ」

「五秒は無理ですね」

「いいから五秒で買ってこいよ」


バズーカを構える総悟。


「お聞きしますが
沖田さんは五秒でジュースを買ってこれますか?」


「もちろんでさァ
俺にでもできるんだから美月ちゃんなら楽勝だろ」

「お手本を見せてください五秒のカウントしてるんで」


バズーカを前にしてもいつもと変わらず答える。


「もう時間はいいから買ってきてくだせえ」

「はい」


宮中は歩いてジュースを買いに行った。


「さすがのお前も形無しか」

「黙れ土方コノヤロー」

 
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