長い夢

□冥姫 第八話
3ページ/4ページ



その一瞬を高杉が逃すはずもなく

「分かるんだよ、俺には
俺とお前は同じだな」

畳み掛けてきた。

「同じじゃない!」

少し動揺してしまい手の甲に赤い線が走る。

かすり傷みたいなものだが斬られた。


「ホゥ、腕をばっさり斬るはずだったんだぜ」

じいっと隻眼(せきがん)が私をみる。

「なに?」

「小娘…だが…よく見りゃ、なかなかの上玉じゃねェか
百花を添えるってのは今のお前みたいなのを言うんだろうな。
お前を使って真選組の奴らをからかうのも一興」

「?…」

「俺がお前を女にしてやるよ」

ザシュ!

高杉の胸に赤い線が走る

深く斬ったつもりだったが避けられたようだ
浅い。

「もう一回言ってみなよ」

口元だけでにやりと笑う。


入り口のほうが騒がしい
気がつけば混乱は治まっている

見物客たちが戻ってきたのだ。

「残念だが時間切れだ」

「逃がすとでも?」

「俺は見物客が何人死のうとかまわねェが、お前はどうだ」

状況はこちらが不利
唇を噛む。

「ククまた会おうぜ」

高杉が闇に消える瞬間を狙って、忍ばせておいた針を投げた。

手応えはあったが…
深手には至らないだろう。


斬られた手の甲の血を拭う
そこに傷と呼べるモノはない。


私が戻ったころには敵(ロボット)は全て倒されていた
将軍様も無事だったようでよかった。

高杉のことを秘密裏に報告したら、近藤さん土方さんに心配された。



後日

市中見回りの最中
路地裏に入った。

「高杉いるんでしょ」

視線を感じる。

「あんたは私と同じと言ったね
確かに私は闇を知っている
世の中だってくだらないと思うこともある
でも私はこの世界を愛している、
あんたが憎む以上に愛しているというなら、私とあんたは同じだけど
愛してるわけないよね
世界を壊そうとしているあんたが。

あと私は人を斬ることを躊躇しない
それはあんたと同じかもしれない、
けど刀を振る理由が違う
人を斬ることに変わりなくても私は護るために刀を振るう。
それでも同じだというなら理由を聞こうじゃない」


少しして視線が消えた。

くだらない。

裏の世界にいるとき、何度言われたか分からない

『お前は自分と同じだな』と。

でも久しぶりに聞いて、言いようのない懐かしさを一瞬とはいえ感じるとは、ね。





あの女、揺るがない信念を持っていやがった。

一瞬動揺したからいけるかと思ったが

冥姫と呼ばれるだけのことはあるってことか。

あいつの最後の一撃で出来た腕の僅かな傷を撫でた。

敵を冥府に誘う
凛として鮮やかな冥府の君、冥姫

おもしれェ女だ。


眼を閉じて思い出されたのは先程の すましたような眼。

女にしてやると言ったときは、眼の奥に炎が灯ったっけなァ。

冷静さの中に激情を孕んだ
ひどく冷たい色をした炎が。


俺はその炎に焼かれたのをはっきりと自覚している
ククク、ちぃっと焦げちまったかもしれねェなァ。

いいねえ、気にいったぜ。


俺の獣が俺に囁く

「あの女が欲しい」と。





→後書き
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ