長い夢

□冥姫 第八話
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橋の上で桂と派手な着物を着た男が喋っている。

「なぜ貴様が江戸にいる
幕府の追跡を逃れ、京に身をひそめていると聞いたが」

「祭りがあるって聞いてなァ
来ちまったよ」

「祭り好きも大概にしろ
死ぬぞ
貴様は特に幕府に嫌われているんだからな」

「将軍様が参られる祭りだ
参加したくもなるだろォ」

「お前まさか」

「祭りの最中に将軍の首が飛ぶようなことがあったら面白ェだろーな、
世の中ひっくり返るぜ
フフフ ハハハ」

「………」

「それとよォヅラ
冥府の君、冥姫って知ってるか?
舞うかのごとく刀を振るい
一滴の返り血も浴びず敵を斬る、
潰された組織も両手じゃたりねェ」

「ヅラじゃない桂だ
無論知っている」

「前々からどんな女なのか興味があってなァ
ついでに見ていくつもりだ」

「不用意に近付けば貴様が冥府に送られるぞ」

「冥府の君と呼ばれるほどいい女なんだろ?
見ておいて損はあるまい
ククク」





お祭りが近づく。

お祭り自体はいいのだ
問題ない

そのお祭りに将軍様がくるのが問題なのだ。


副長室で数人の隊長さんと私と山崎さんの意見を取り入れつつ
土方さんは警備の配置場所を決めていた。

あーだこーだと意見を出しあう。


時間がかかったが完成した。

疲れたし自販機でなんか飲み物でも買お。

「ごくろ〜さん」

沖田さんがふらりとやってきた。

「やっと配置場所が決まりましたよ〜」

「それより美月ちゃんは祭りを楽しみたくねえかい」

「出店を巡ったり、出し物を見たりですか」

「そうでさァ」

「楽しみたくないといえば嘘になるかもしれませんが、別にいいです。
警護対象は将軍様ですよ」

「残念だねィ」

まさか当日 サボる気じゃあるまいか。



祭りの前日

会議室

土方さんが明日の説明をする。


「いいか明日は真選組総出で将軍の護衛をすることになる
将軍に少しでも傷がついたら全員の首が飛ぶぜ、心してかかれよ
攘夷浪士どもも必ず動く、怪しい野郎を見つけたら構わずブった斬れ
俺が責任をとる」

「マジですかィ
俺ァ鼻が利かねーんで侍見かけたら全部ブった斬りまさァ
頼みましたぜ」

翌日の新聞の一面を飾ることになりそうだ。

「みんなーさっき言ったことはナシの方向で」

賢明な判断だと思う。


「それからこれは未確認の情報だが、とんでもねェ奴が江戸に紛(まぎ)れ込んでるって話だ」

「一体誰でェ桂の野郎は近頃おとなしいし」

誰だろ?

「料亭で会談してた幕吏(ばくり)十数人が皆殺しにされた事件があっただろ
あれはソイツの仕業だ
攘夷浪士の中でもっとも危険で過激な男
高杉晋助のな」


高杉晋助。

人相書きを見たことがある
左目を覆う包帯が印象的だった。

とりあえずは明日に備えて武器の手入れをいつもより丹念にしておこう。

 
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