長い夢

□冥姫 第二十九話
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「・・・ごめん
早とちりして思い出させるようなこと言って
でも理由が知れたことは嬉しかった」


それ以降 沖田さんは何も追求してこなかった。





自室で書類に向かうも筆はちっとも進まない。

気分が沈んでいるから。



翌朝

見回りで外に出た。


昨日のことは思い出すと凹むので思い出さないように努める。


こんな気分のときは太陽が照っていれば いくらか気分が晴れるのに
晴れていた空はすっかり灰色の雲に覆われている、


曇り空の下を歩いていたら水滴がぽつぽつと降ってきた。


軒下に避難すると本格的に雨が降りだす、

辺りから人は消え 雨音だけが響いている。

私は何をするでもなくぼんやりと雨を見ていた。



しばらく立ったが雨はやみそうにない。


濡れて帰るしかないかと思い始めたとき、
一台のパトカーが私の目の前を通り過ぎて行ったがバックで戻ってきた。


運転席には土方さんが座っていて手招きをしている。


パトカーの助手席に乗り込んだ。


「濡れて帰るしかないと思ってました」

「‥だろうと思った」

「偶然とはいえよかった
おかげで濡れずにすみました」

「そうだな」


……ちょっと待って…
だろうと思った?

あっ!
もしかしてわざわざ捜してくれたとか?


いつもなら考えもしない考えも母上のことを聞いたあとでは納得できる理由になる。


「もし違ってたらすみません。
もしかして私を捜してくれたんですか」

「‥んなわきゃねーだろ
自惚れんな」


ピンときた。

私の質問がよほど予想外だったんだろう

取り繕うような台詞の直前

図星を突かれてもめったに動揺しない土方さんの動揺が伝わってきて

だからピンときた。


母上に言われたからいつもより気を遣っているとよく分かった。


「土方さん…母上が言ってたこと気にしなくていいですよ」


車が停車する。


「総悟に聞いたのか」

「はい」

「お前まさか 俺が頼まれたから気にかけてると思ってんじゃねーだろうな」


正確には半分。


「半分思ってます」

「半分?」

「土方さんは母上がくる前から相談にのってくれるって言ってましたよね、だから半分です」


沖田さんは頼まれたからではないと言葉で示してくれた。


「俺は頼まれたからって気にかけたりしねえ」


フォローの達人が言っても説得力はない。


「でもわざわざ迎えに来てくれたんですよね?」

「俺は…」

「いつもの土方さんなら迎えに来たりしません」


「っ!あそこまで元気なくしてたお前を気にかけるなってのか!?
ふざけんな!!

俺にはまだお前の心は見抜けねえんだよ!
お前は大抵のことなら辛いことがあっても綺麗に笑ってみせるから…

そんなお前をほっとけるわけないだろ!」


…そっか…昨日のは不服に思ってたんじゃなくて疑ってたんだ

私がまだ落ち込んでるんじゃないかと。


「お前は俺にとって…大切な……可愛い………部下で……仲間だ」

「ごめんなさい…」


傷つけた、土方さんを傷つけた。

土方さんが怒鳴ったのは当たり前だ。


言われたからじゃなく本心で心配してくれたのに…
私が疑ってしまったから。

 
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