土方さんが私を名前で呼ぶと言った数日後。
「美月…美月……」
「はい、お呼びですか」
「うおわァァァァ!!」
「きゅ、きゅ、急に叫ばないでください、驚くじゃないですか」
ドキーっとした。
「それはこっちの台詞だっ!」
「土方さん 私を呼んでましたよね?」
「いや、お前を呼んでたわけじゃなくて」
なくて?
「宮中美月」
「はい…?」
なんでフルネーム?
「み、み、み、みみ宮中!」
ここのところ土方さんはこんな感じだ、
名前で呼ぶと言っていたが面と向かって名前で呼ばれたことはない。
たぶん違和感があるんだと思う、
ずーっと宮中だったからね、
それか宮中って呼ぶのが癖になってるのかも。
「あの…無理に名前呼びしなくてもいいですよ」
「見くびるんじゃねー!
俺は呼んでみせる!!」
一大決心したみたいに宣言するほどのことじゃないと思う。
「みみみみ宮中!」
沖田さんが通り掛かった。
「またやってんですかい
ヘタレはヘタレらしくヘタレの領分を越えることはしないでくだせェ」
「誰がヘタレだコラ
俺は呼ぶんだよ、呼んでみせるんだよ。
そこから新しい一ページが刻まれてくんだよ」
新しい一ページってなんだ?
「なあ、み み み み み!」
しょうがないな…。
「土方さん 私 土方さんには宮中って呼んでもらいたいです」
「俺に名前で呼ばれるの嫌か?」
「嫌ではないですけど違和感があります」
「ずっと宮中って呼んでたからな…
お前がそう言うならまだ暫らくは宮中って呼ばせてもらう」
「はい お願いします」
納得してくれた。
だから土方さんは今でも私を宮中と呼んでいる。
兄上との楽しかったことや嬉しかったことだけを思い出すよう努力を始めてからだいぶ立った。
季節もすっかり巡り今は冬。
そんなある日の昼下がり、書類を持ってきた私を土方さんが見つめている。
探るような瞳、
私が落ち込んでないか探っているのだ。
「チッ、まだ分かんねェな」
そう簡単に分かられても困る…かな?
「あれからどれだけ立ったと思ってるんですか
そんなにしょっちゅう落ち込んだりしませんよ」
苦笑いがでた。
「元気ならそれでいいが…」
不服そうだな…
見方によっては私が元気なのが不服と思えなくもない。
「まだ仕事が残ってるのでこれで失礼しますね」
土方さんの部屋から自室に戻っていたら沖田さんに声をかけられた。