長い夢

□冥姫 第二十八話
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気配を消すのを止めて襖を開ける。


ゆっくりと宮中がこちらを向いた。





涙でぼやける視界の中
襖が開く音が聞こえた。


兄上かもしれないと馬鹿げた考えを捨てきれない私は愚かだ。

視線を向けると兄上ではなく、着流し姿の土方さんがいた。


慌てて顔を背けて涙を拭う。

どうして土方さんがこんな時間に私の部屋に?


泣いてるところを見られたという焦りも相まって巧い言い訳も思いつかず頭の中は真っ白。


襖を閉める音 畳を歩く音がして土方さんが私の隣で屈(かが)み私の頭を撫でる。

行動の意味が読めなくて顔を見ると痛みと優しさを含んだ目をしていた。


「泣くのが悪いことだとは思ってねェ
我慢なんかするな 泣きたいなら泣け」


ずっと泣きたくないと思っていた

思っても涙は溢れて

泣くまいと我慢しようとしても抗(あがら)えなくて
毎日 自分で自分を責めていた。


なのに土方さんの言葉で許された気がした、何かに。


泣いてもいいんだよ、と。


なんでかな
なんでそう思ったのかな


土方さんの言葉が心に届いたのは多分あの時の兄上と似た目をしていたから、

そう思ったらまた涙が止めどなく溢れて嗚咽が漏れる。


そっと抱き締められた。


「嫌なら…突っぱねてくれ」


突っぱねたいけど嫌じゃない。


後は何も考えずに泣き続けた。





パチリと目が覚めて時計を見ると6時25分だった。

久しぶりによく寝たと自然に思うほど快眠で頭がスッキリしている。

ただ目は腫れぼったい
あれだけ泣けば当然か。


……………?

私 布団敷いてたっけ?


あ、土方さんが敷いて寝かせてくれたのかも

……って、ええぇ!?!?


ガバリと起き上がった。


寝る前のことを思い出す。

もしかしなくても私 泣き疲れて寝た!?

恥ずかしくて一人あわあわと焦る。

泣き疲れて寝るって小さい子供じゃないんだから!


でも…でもね

…うん、不思議

土方さんの言葉で心が軽くなった。

頭の中の霧がパッと消えてまるでまどろみから睡魔が消えるように頭が冴えてハッと気がついたような感じがする。


だから思った
今 考えてみると昨日までの私はおかしかった。


兄上のことを思い出しては泣きそうになったり泣いてばかりいた。

悲しいことばっかりクローズアップしてた

悲しいことばかりじゃなかったのにね…。

これからは思い出したら笑顔になれるように頑張る
それならいいよね、

兄上が嬉しいと私も嬉しい

私が嬉しいと兄上も嬉しいって言ってたもん。


堂々巡りなら嬉しいこと楽しいことのがいい。


今は本当に強がりでしかないけど

いつか
いつかきっと…!

 
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