長い夢

□冥姫 第二十八話
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どうしても縋るときは自分のために大切な人に縋るのではなくて
大切な人のために縋りなさい。


いつか母上が言ってたこと
頭では理解できてるよ。









「待って!!」


目を開くと天井が見えた。

上半身だけ起こして辺りを見回す、屯所の私の部屋だ。


枕元に置いたお守りは力を失い、形だけを留めていた。


凄いね、本当だったよ
本当に夢で兄上に会えたよ。


夢でさよならを言われた
戻れないから待たなくていいと言われた。

布団に雫が落ちて染み込んでいく

ポロポロと雫が頬を流れて
私は枕に顔を埋め
布団を頭から被り、泣いた

喉がしゃくり上げて息が苦しい。


兄上……。


ごめんなさい、
最後まで我儘ばっかり言って
兄上だって別れは辛いのに私をなだめて励ましてくれた。


でも会いたい
もう一度兄上に会いたい

会いたくて待っていたんだよ。


なのに二度と会えないなんて嫌だ、辛いよ。






朝がきた

涙が枯れるほど泣いたのですっかり目が腫れぼったい。


冷やして治そうという気どころか布団から出ようという気力さえ湧かない。


生きたまま死んでるような
死んだまま生きてるような
状態。



「宮中!いつまで寝てんだ!起きろ!」


土方さん

頭から布団を被ったままなので顔は見えてないよね。


「…痛いんで休ませてください」

「どこが痛いんだ?」


心が痛い。


「胸が…痛いんです…」

「胸って心臓の辺りか?」

「その辺りです…」

「すぐ医者呼んでくる!」

「呼ばなくて…いいです」


治らないから。


「何かあってからじゃ遅いんだよ!」


走る土方さんの足音が遠退いていく。


呼ばなくていいのに…。



お医者さんが検診に来たものの私は頑なに布団から出なかった
もちろん検査の仕様などない。


それを聞いた近藤さんが説得してきたけど私は布団から出なかった。


「ここまで言ってもダメか、しょうがない強制的に布団を剥ぐぞ」


そこから攻防が始まった。


剥がそうとする近藤さんと剥がされまいとする私。


互角なので決着が長引くと思われたけど


「トシ手伝ってくれ」

「ああ」


2対1では勝負が見えている。


「トシはそっち持ってくれ、
いくぞ せ〜の〜」


バッと布団が剥がされて視界が明るくなった。


泣き止んでからそれなりに時間が立ったので目の腫れは引いているはず

元々 腫れが引くのは人より早い。


「宮中 心臓が痛いわりに元気だなァ?」


開き気味の瞳孔がさらに開くのが見えた。


「痛みが軽くなったんです」


攻防のおかげで。



そのあとは土方さんによるお説教。

 
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