長い夢

□冥姫 第二十七話
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自分で言っておきながら いざそうなると解ったら恐くなった

さっき言った言葉を無かったことにしたい。


…いや、これでいいんだ
もう私のお守りから兄上を解放してあげよう

私も妹として向けられる優しさに縋りたくはない。

このままいけば縋ってしまう、それも恐かった。


おかしいね、私は兄上を支えたかったのに恋に狂わされてしまった。


「うん いいよ…」


はっきり言ったつもりなのに小さい声しかでなかった。


立ち去ると思っていたのに兄上は俯いた私の右手を取る。


「兄としてじゃなく一人の男として伝える
美月…俺は美月が好きだ
誰よりも大切で愛している」


言われたことを頭の中で反復して意味を再確認した。

弾かれたように兄上を見ると真剣で優しい眼をしていた。


「え?な、んで……私は妹で兄上は兄上で……え?え?」


言葉が漏れた。


「美月は覚えてないだろうけど俺は美月に救われたんだ、
笑わなくなった俺に笑顔を取り戻してくれた」


本当に覚えがない。


「そうなの?」

「美月は小さかったから覚えてないか、でも俺は覚えてるよ
だから決めたんだ、一生護るって」


知らなかった。


「それは妹としてのはずだったんだけど…
どこで違ったんだろうな、
まあ血は繋がってないから問題ないけど美月は俺のこと兄としてしか見てなかったから隠しておくつもりだった
でも…」

「……え?……ちょっと待って!血が繋がってないって何?」


話を中断してでも聴きたくなることをサラリと言ったよ!?


「俺は養子なんだ
俺の本当の両親は今の両親の友人で魔物に襲われ俺だけが生き残った、
美月が二歳のとき引き取られたけど覚えてないか」


ぜんぜん記憶にないんだけど…。


「顔とか似てないだろ」


似てないというか


「いいとこどりだから似てないのかと思ってた」

「好きになってごめん」

「…謝らないで、だって私も………その……兄上のことが男性として……好き…だから」

「…ホントか?」

「嘘 言ってどうするの」


兄上は私を優しく抱き締めてくれた。


「夢みたいだ」

「夢みたい」


私も兄上の背に手を回す。

しばらくは何も言わずお互いの体温に包まれていた。


「美月……キスしていい?」


何も言わずに頷いた。



その後、父上や母上、仲間の皆にも公表して晴れて恋人になった私たち。


幸せで私は忘れていた

なぜ母上が一族の血が繋がっていない兄上のことを
宿命を背負っていると言っていたのかを。


宿命を背負った子は、うちの一族からしか産まれないわけじゃない。



強力な魔物との最後の戦いのとき宿命は残酷にも行使された。


魔物を滅する方法は兄上が人柱になるしかなくて


「俺はこの世界が好きだよ
愛する美月がいて
大好きな皆がいるこの世界を愛してる
だから壊されたくないんだ」


その言葉を残し
……兄上は…いなくなった。




それからの私はすっかり茫然自失

泣いてばかり。


沢山の人が私を立ち直らせようとしたけど誰の言葉も届かなかった。


 
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